マンション購入が相続税対策になるのはなぜ?マンション以外の不動産は?
相続税対策には現金で持っておくよりもマンションを購入した方がいい、とよく言われます。
しかしなぜマンションの購入が相続税対策になるのでしょうか?
アパートや戸建ての不動産ではなく、「マンション」が相続税対策に適している理由を解説します。
マンション購入が相続税対策になる6つのしくみ
マンションの購入がなぜ相続税対策になるのかということについては、不動産に対する相続税の評価方法が、現金に対するものとは異なることが関係しています。
ここでは、マンションの購入が相続税対策になる6つのしくみについて解説します。
課税評価額をできるだけ低くすることが相続税対策の基本
相続税は相続税評価額が増えれば増えるほど税率が高くなる累進課税の税金です。
相続税の税率
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
逆に言えば少しでも相続税評価額を低くすれば低い税率を適用できるということになります。
たとえば、現金で1億円の資産を相続する場合、1億円が相続税評価額になります。
一方で不動産で1億円の資産を相続する場合、相続税評価額が半分以下(5,000万円)になる場合があります。
試算表の例
2億円の遺産を「現金」と「不動産」で相続した場合の違い
※配偶者1人、子供2人の法定相続人を想定
遺産総額2億円の場合 | 現金 | マンション不動産 |
相続税評価額 | 2億円 | 1億円(5割減を適用した場合) |
相続税の基礎控除 | 4,800万円 | 4,800万円 |
課税対象 | 1億5,200万円 | 5,200万円 |
配偶者が納める相続税 | なし | なし |
子2人が納める相続税 | 1千120万円 | 290万円 |
支払う相続税の合計 | 1千120万円 | 290万円 |
このように、相続税評価額をできるだけ低くすることが、相続税対策の基本であることを理解しておきましょう。
現金の代わりに不動産を相続した相続人(配偶者や子)は、将来継続して家賃収入を稼ぎつつ、不動産を売却して2億円相当の現金を手元に戻す方法を税理士と検討しましょう。
土地・建物は現金に比べて課税評価額が低い
相続税評価額とは「相続税を求める金額」です。
相続税評価額は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額をベースにして算出することになっています。
固定資産税評価額とは「固定資産評価基準」に基づいて自治体が決定する金額です。
通常、路線価は取引価格の7割程度、固定資産税評価額は建設費の5割程度に設定されています。
そのため、土地や建物の相続税評価額(相続税を求める金額)は、実際の価格(時価)よりも低く計算されることになります。
現金1億円は1億円の相続税評価額ですが、現金1億円を賃貸用の土地や建物にしておくと、相続税評価額が5,000万円のように下がります。
不動産の中でも、特におすすめなのがマンション購入
相続税対策のため不動産の購入を考える際に、特におすすめなのがマンションです。
マンションは複数人で所有するという形態をとっており、建物部分については個人が所有している部分がそのまま個人の資産になります。
一方土地部分については、建物全体のうち個人が所有している割合(これを持分割合といいます)に応じて保有しているものとされるため、相続税評価額の軽減効果が大きい資産です。
敷地面積は広大であっても持分割合で按分することになりますので、土地の保有部分はかなり小さくなります。
要件を満たせば適用できる特例もいくつかありますので、土地の評価がさらに下がる可能性があります。
また、部屋が南向き、設備が充実している等の理由で、固定資産税評価額(自治体が決定する金額)が左右されないため、不動産の市場価値よりも、相続税評価額が低くなる仕組みが相続税対策として活用されます。
購入したマンションを賃貸に出せば、さらに相続税評価額を下げられる
相続税評価額の軽減効果が大きいマンションですが、賃貸に出せばさらに相続税評価額を下げることができます。
相続税の計算において、賃貸する不動産の相続税評価額は以下の式で計算します。
貸家建付地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
貸家の評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
賃貸していれば(カッコ)内の数字は1より小さくなります。
つまり、賃貸することにより借地権割合や借家権割合により相続税評価額の減額を行うことができるのです。
ただし、空室があれば賃貸割合が下がりますので、空室の部分は相続税評価額が下がらないことになっています。
小規模宅地等の特例を併用すると、土地の評価額を50%引き下げ可能
賃貸住宅の土地は貸付事業用宅地等というものに該当するため、相続税の計算において小規模宅地等の特例の適用対象となっています。
この特例を併用すると、貸付事業用宅地等の場合は200㎡までの部分の相続税評価額を50%引き下げることが可能です。
ただし貸付事業用宅地等を取得した親族が、相続税の申告期限において引き続きその貸付事業を行っていなければならない、などの要件があります。
マンション購入資金はローンの利用も検討する
マンションを購入する際にはローンの利用も検討してみましょう。
金融機関からの借り入れは負債となり、債務控除の適用があるため、相続財産の計算において資産から差し引くことができるというメリットがあります。
ただしデメリットとしては、ローンには金利を付して返済する必要があることが挙げられます。
タワマン節税とは?これからも節税効果は見込めるのか?
タワーマンションの購入には今後も一定の節税効果は見込めることでしょう。
しかし行き過ぎた節税には、税務当局も目を光らせています。
タワーマンションによる節税を考えるのであれば、リスクについても知っておきましょう。
タワーマンション節税とは
タワーマンション節税とは、物件の市場価値と相続税評価額との差を利用して相続税を軽減する節税対策として知られています。
タワーマンションは高層階ほど市場価値が高くなっています。
現在は行政に対策されつつありますが、固定資産税評価額は低層階でも高層階でも差がありませんでした。
タワーマンションの相続税評価額は固定資産税評価額から算出されるため、東京港区など、1億円の資産価値を維持できるタワーマンションの1室を購入し、相続時の相続税評価額を2,000万円まで下げる効果が期待されます。
タワーマンション節税で今後気をつけるべきポイント
タワーマンション節税については税務署も着目しており、課税強化の動きがあります。
以前は低層階でも高層階でも変わらなかった固定資産税評価額についても既に見直されているため、市場価値と相続税評価額との差額による節税効果も減少しつつあります。
さらに相続開始直前のタワーマンションの購入は、税務調査により租税回避行為とみなされると、課税額が大幅に増える恐れがあります。
また、地震などの影響により、資産価値が下がるといった投資リスクも考えられます。
相続税対策にはどんな種類の不動産がいいのか?
不動産の購入が相続税対策となることについてはご理解いただけたことでしょう。
しかし不動産にもさまざまなものがあるため、選択が難しいです。
ここでは相続税対策にはどんな種類の不動産を選ぶべきかについて検証していきます。
土地 or 住宅
土地や建物の相続税評価額は市場価格よりも低く計算されることになっています。
土地の場合の相続税評価額は市場価格の7割程度、マンションの場合は建設費の5割程度といったように、相続税評価額は建物のほうが低くなる傾向が見られます。
したがって土地に加えて住宅を購入すると、節税効果がより高くなるといえるでしょう。
一戸建て or 分譲マンション
土地について着目すると、一戸建ての場合は敷地面積=保有面積になりますが、分譲マンションの場合は持分割合に応じて保有面積が決まります。
つまり住居部分の面積は同じでも、一戸建てと分譲マンションとでは土地の保有面積に大きな差が出ます。
土地の相続税評価額は建物よりも高くなる傾向があるため、土地部分が少ないほど相続税評価額は低くなります。
よって分譲マンションは一戸建てよりも節税効果が高いといえるのです。
区分所有マンション or アパート経営
相続人が複数いる場合には、相続時の分配のしやすさも考慮すべきです。1棟のアパートよりも複数の区分所有マンションを持つ方が望ましいでしょう。
不動産を共有することはトラブルになりがちです。
またアパートの土地も貸家建付地となるため、相続税評価額を大幅に下げることができます。要件を満たせば小規模宅地等の特例も適用できるため、更なる減額が可能です。
1棟マンション経営 or アパート経営
1棟マンションの経営は、都市部の駅近物件であれば市場価格と相続税評価額の乖離が期待でき、節税効果が高くなります。
これはアクセスの良い都心のマンションの需要は高く、市場価格も高額になりますが、相続税評価額は同程度の建物であれば都心でも郊外でも変わらないためです。
ただしその分マンションの建設コストまたは購入価格は高額になります。
一方アパート経営の場合は、郊外でもある程度需要が期待でき、ローコストで建設が可能です。
1棟マンションを経営するほどの大きな節税効果は見込めませんが、ローコストで経営を始められるのがメリットです。
相続税対策としてマンション購入する際に注意すべきポイント
相続税評価額を下げることができるといった点で相続税対策として有効なマンションの購入ですが、デメリットもあります。
ここではマンションを購入する際に注意していただきたい、6つのポイントについて解説します。
マンション購入によるリスクを考慮する
相続税対策を考える前に、そもそも相続税がかかるのか、もしかかる場合にはいくら位になるのかということを必ず確認しておきましょう。
相続税は相続税評価額から基礎控除額を差し引いて計算します。
したがって相続する資産がそう多くない場合には相続税がかからないか、かかっても僅かである可能性があり、節税額よりも諸経費等の方が多くなるリスクがあります。
相続税率表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
試算表の例
相続財産の平均値
※配偶者1人、子供2人の法定相続人を想定
遺産総額3千万円の場合 | 現金 (金融資産など) |
相続税評価額 | 3千万円 |
相続税の基礎控除 | 4,800万円 |
課税対象 | なし |
配偶者が納める相続税 | なし |
子2人が納める相続税 | なし |
支払う相続税の合計 | なし |
このように、相続財産が平均的で、相続税がかからないと、マンション購入等による相続税対策よりも、現金で相続したほうが有利な場合があります。
また現金であれば価値は変わりませんが、不動産は希望のタイミングに希望の価格で売れるとは限りません。
さらに空室により賃貸収入が得られないリスクや、資産価値の低下が節税額を上回り、結果的に損をするリスクも考えられます。
物件の収益性を見極める
マンションの購入が相続税対策に有効であると判断した場合には、購入しようとする物件の収益性を見極めるようにしましょう。
具体的には実質利回りをチェックすることが大切です。
実質利回りとは、年間の家賃収入から経費(建物の減価償却費、不動産の管理費、固定資産税などの租税公課、ローンの利子など)やリスク(空室率、家賃低下率など)を考慮して実際の手残り金額を計算する方法です。
なお、表面利回り10%で購入した物件が、実質利回りが3.5%で、大赤字になる大家さんが後を絶ちません。
表面利回りは不動産会社のセールス色が強いため、税理士に相談して、実質利回りを計算しましょう。
家賃収入は「不動産所得」として税金が課される
家賃収入から諸経費を差し引いた利益が不動産所得となります。
不動産所得は毎年確定申告が必要であり、所得税や住民税がかかります。
申告書を提出するためには、帳簿の記帳や損益計算書・貸借対照表の作成が必要となります。
物件数が多くなれば処理も難しく、煩雑になるため、税理士に相談される方も多くなっています。
遺産相続トラブルの可能性も
不動産は現金のように単純に分けることはできません。
しかし相続人が複数いるからといって、安易に不動産を共有名義にすることはおすすめできません。
共有名義の場合は不動産の処分方針なども一人では決めることができないため、共有者と後々トラブルに発展する恐れがあります。
さらに共有者に相続が発生して、その家族に相続された場合、権利関係がものすごく複雑になる可能性もあります。
納税用の現金を確保しておく
不動産の購入には多額の費用がかかります。
相続税対策のために不動産を購入したものの、納税資金を残しておかなければ相続人は納税に困ることになります。
相続税は原則として現金での一括納付が求められ、延納や物納は要件が厳しくなっています。
不動産を購入すると納税資金を残すのが難しいと考えられる場合には、借入金で購入することも検討してみましょう。
相続直前に購入しない・相続後すぐに売却しない
不動産を相続直前に購入したり、相続後すぐに売却したりするのは避けましょう。
税務調査により「節税行為が著しく不適当と考えられる」ケースであると見なされると、市場に流通している販売価格を基準に相続税を課されるといったリスクがあります。
また、相続税の申告期限までに賃貸物件を売却すると、小規模宅地等の特例を適用することができなくなるため注意しましょう。
相続対策で考慮すべきことは「節税対策」だけではない
ここまでマンションの購入による相続税の節税対策について述べてきました。
しかし相続対策で考慮すべきことは、何も相続税対策だけではありません。
ここでは相続対策の考え方や取るべき対策について解説します。
相続対策は総合的に考える
相続対策は「相続税の支払いをいかに少なくするか」だけで考えない、すなわち相続「税」対策だけで考えないようにしましょう。
遺産分割や納税資金などについても気を配るなど、総合的に考えて判断しなければなりません。
よって相続対策を考える際には以下の3つに分けて考え、順序立てて対策を実行していくことが重要です。
遺産分割対策
遺産分割は相続税がかかる場合はもちろん、かからない場合にも必要です。
しかし、不動産を共有すると「売りたいときに売れないリスク」や「片方が修繕費など経費を負担できない」など、争いやトラブルなる恐れがあります。
争いを防ぐため、不動産の分割には主に2つの対策が考えられます。
・代償分割(1人の相続人が不動産を取得し、取得した人が他の相続人に不動産の代わりとして金銭を渡す方法)
・換価分割(不動産を売却して金銭に換えてから現金で分ける方法)
相続人が困ることのないよう、財産を分けやすい形にしておきましょう。
納税資金対策
相続税は原則、現金で一括納付しなければなりません。相続開始から10ヶ月以内に納付する必要があり、納付が遅れると延滞税も発生します。
しかし相続した預金は金融機関がその口座を凍結するため、遺産分割協議が終わるまでは引き出しができません。
相続した預金を納税資金に充てようと考えていても、相続人の間で分割協議がまとまらければ引き出すことができず、納税資金の確保ができないという恐れがあるのです。
また不動産を売却して納税資金に充てる場合には、遺産分割や不動産の売却には思いのほか時間を要するということにも注意しておきましょう。
節税対策の注意点
不動産投資は有効な相続税対策となりますが、相続開始の時期によっては節税効果を得られない可能性があります。
相続開始時期の注意点
不動産賃貸業を始めて3年以内に相続が発生した場合、その土地は貸付事業用宅地等とはならないため、小規模宅地等の特例を適用することができません。
そのため、贈与により相続税評価額の元となる相続財産を減らしておくことも、節税対策として有効です。
しかし暦年課税贈与の場合、贈与から3年以内に相続が発生すれば、贈与財産を贈与時の価額で相続財産に加算しなければならないことになっています。(相続時精算課税贈与の場合は、相続が発生すれば必ず加算しなければなりません。)
贈与時の価額が相続税評価額よりも高い場合には、相続税額はむしろ増える結果となり、節税の効果が得られません。
節税のみを求める相続税対策はリスクが大きいと言えるでしょう。
不動産による相続税対策まとめ
マンションの購入は現金で持っておくよりも資産の相続税評価額を下げることができ、相続税の節税に効果があります。
そのマンションを賃貸すれば、さらにその相続税評価額を減額することができます。
しかし、税務調査で行き過ぎた節税であると見なされると、追加で相続税を払わなければならなくなる可能性があります。
また不動産の価値が下がることや、相続開始のタイミングによっては、期待した節税効果が得られないリスクもございます。
不動産投資に詳しい税理士などの専門家に相談し、試算してもらうことも検討してみましょう。
リスクやデメリットを理解した上で有効な相続税対策を行っていくことが大切です。