不動産賃貸業を法人化するメリットは?デメリットは?いつすべき?

不動産賃貸業を法人化するメリット

不動産賃貸業を法人化するメリットを税理士がわかりやすく解説します。

個人と法人の税率差で節税できる

個人に対する所得税の税率は、所得が多くなればなるほど段階的に増加する仕組みになっています。

これを超過累進税率といい、最低5%~最高で45%にもなります。

一方、法人税の税率は所得が800万円までは15%、800万円を超えた場合は超えた部分のみ23.2%となるシンプルな仕組みです。

したがってある程度の所得になると、法人の税率よりも、個人の税率のほうが高くなります。

こうした仕組みの違いを活かして個人と法人の税率差により、節税対策が可能です。

個人と法人の税率差の例

不動産所得が850万円、課税所得は個人・法人共に800万円であるとします。

税率差

個人事業主

法人

所得税 VS 法人税

23%

15%

住民税所得割

10%

1%

事業税

5%

5.3%

税率(その他の税金を含みます)

38%

23%

住民税均等割

5,000円

70,000円

税負担

3,045,000円

1,910,000円

個人の所得をコントロールできる

個人事業主は自分に給与を支払うことはできませんが、法人化することにより自分に役員報酬を支払うことができ、金額もコントロールすることができます。

また家族を役員にすることにより、不動産からの収益を役員報酬として家族に分配することができるため、個人の所得の増加や相続財産の増加を抑えることもできます。

事業的規模に関係なく節税できる

個人で不動産業をおこなう場合「5棟10室基準」のような事業的規模でなければ、家族を青色事業専従者(白色申告の場合は事業専従者)とすることができないため、家族に支払った給与は経費になりません。

しかし法人の場合にはそのような規定はありませんので、たとえ事業的規模ではなかったとしても役員報酬を経費とすることができますし、役員報酬を受け取る人は給与所得控除の適用を受けることができます。

厚生年金と退職金を積立てできる

法人であれば社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することになります。

また厚生年金の加入により将来の年金の受給額を増やすこともできます。

自分や家族に支払う退職金については個人事業では経費になりません。

しかし法人では経費となるため、退職所得として退職所得控除の適用を受けることができ、税法上有利です。

また法人では契約者を法人、被保険者を個人、保険金の受取人を法人とする生命保険に加入することもできます。

個人が亡くなったときに法人で受け取った保険金を家族に死亡退職金として支払えば、相続税の非課税枠を使うことができ、節税になります。

物件の売り時を逃さない

損切りなど、短期譲渡を視野に入れている不動産オーナーは法人化を検討しましょう。

個人の場合は必ず減価償却が必要となり、物件の取得価額から減価償却費を差し引いたものが物件の帳簿価額になります。

この帳簿価額と売却金額の差額が売却益となります。

個人の場合には年数が経過すればするほど帳簿価額が小さくなるため、売却益が大きくなる可能性があり、取得後5年未満に物件を売却した場合、短期譲渡所得の税率が39%(所得税、住民税)に増加します。

しかし、法人なら減価償却をするかどうかは任意です。

また法人は個人のよりも低い税率のため、不動産投資でキャピタルゲインを狙う場合、法人で所有するほうが有利になるでしょう。

不動産以外の支出も経費になる

個人事業主の支出は生活費と混合しがちのため、不動産業であれば、不動産に関わる経費に限り計上することが認められます。

これに対し、法人の支出は不動産に限らず法人の事業活動において支出されているものであれば、全て経費に認められます。

さらに大規模修繕に備えて契約者を法人、被保険者を個人、保険金の受取人を法人とする生命保険に加入すれば、掛金の一部を経費とすることもできます。

相続時に有利になる場合がある

個人オーナーが株主になり、個人の不動産を法人に移すことにより、個人の相続財産を減らす効果が期待できます。

株主に相続が発生すれば、この株式も相続財産となり、法人の収益が上がると(株価が上がり)相続財産が増加します。

株価上昇の対策として、法人の借入を増やし、株価を下げたうえで株式を子供に贈与する方法があります。

借入をすると負債が増えることになりますので、株価を下げることができます。

このタイミングで株式を子供に贈与することで、相続税および贈与税を抑えることができます。

損失を10年間繰り越すことができる

法人の場合は青色申告であれば赤字(欠損金)を10年間、繰り越すことができます。

例えば初年度が赤字になった場合、2年目や3年目以降の任意の事業年度に利益から赤字分をマイナスして、法人税の支払いを減らすことができます。

個人の場合は青色申告でも3年間しか繰り越せませんので、この点では法人の方が有利です。

消費税の免税事業者になる

貸店舗、倉庫、駐車場などといった住宅以外の家賃収入が1,000万円を超える場合には、消費税の課税事業者になります(住宅の場合、消費税は非課税とされています)。

しかし法人を設立して第1期・2期については原則として消費税は課税されないため、住宅以外の課税対象の家賃収入が1,000万円を超えるタイミングで法人化を検討しましょう。

不動産賃貸業を法人化するデメリット

個人の不動産を法人へ簡単に移せない

個人で取得した不動産を法人へ移すためには、不動産の名義を個人から法人に変更する必要があります。

不動産の名義変更をするためには法律上の原因(登記原因といいます)が必要になります。

この登記原因には「贈与」「売買」「現物出資」の3つがあります。

これらを実行するには手続が煩雑であったり費用がかかったりするなど、個人が容易に行えるものではないことに注意が必要です。

名義変更すると税金がかかる

個人から不動産を法人名義に変更するときには「贈与」「売買」「現物出資」のいずれかによる登記が必要です。

この登記は専門家である司法書士に依頼することになりますので費用がかかります。

さらに個人から法人へ名義変更する際に、登録免許税や不動産取得税が再び発生します。

初めから法人所有である場合と比較すると、手続が煩雑であったり余分なコストがかかる点がデメリットです。

法人税の申告が大変

法人税の申告は簿記や税法への深い知識が必要であり、個人の確定申告より複雑で提出書類も多岐にわたることから、税理士へ依頼される方が多いです。

事業の規模や内容、依頼する税理士にもよりますが、毎月の顧問料を含めると毎年30~50万円程度の依頼料がかかります。

法人設立直後は融資を受けづらい

法人を設立した直後は実績がないため、金融機関から融資を受けづらい難点があります。

法人の連帯保証人の評価や担保の有無にも左右されますので、全体に融資を受けられないというわけではありません。

また日本政策金融公庫などの創業融資など、創業時にしか受けられない融資があるため、設立時に検討しましょう。

事業ローンを法人名義にできない場合がある

個人で借りた事業ローンを法人名義に変えること(債務引受)は金融機関の個々の判断によります。

債務引受は実質的に法人が新たに金融機関から借入を行うことと同じであり、法人での融資審査が必要になります。

個人名義で借りたローンがあり、法人化を検討している方は、金融機関に債務引受が可能か否か確認しておきましょう。

赤字でも税金がかかる

個人の場合、最終的に赤字になったときは、所得税や住民税といった税金を納付する必要はありません。

しかし法人の場合は、修繕費による赤字や、空室が多くなって思ったように収益が上がらず赤字になったとしても、住民税の均等割(約7万円)が必ず発生します。

役員報酬を期の途中で変更できない

役員報酬の金額は期首から3ヶ月以内に決める必要があり、途中で変更することは原則できません。

今期は利益が出そうだからと期の途中で報酬を増やしたり、逆に利益が出そうにないから減らしたりすると、経費として認めてもらえません。

役員報酬の金額は利益を期首に予想して慎重に決定しましょう。

税務調査の対象となりやすい

個人事業に比べ、法人の方が税務調査の確率が上がります

法人の場合は3~5年に一度くらい、個人の場合は7~10年に一度くらいの割合で調査が行われていますので、法人の方が税務調査の頻度が多くなります。

一般的に黒字の場合が多いですが、赤字だからといって対象にならないというわけではありません。

不動産賃貸業を法人化するタイミング

不動産賃貸業を法人化することで税金面や個人的なライフプランにおいて有利になることがあります。主に以下のタイミングで税理士へ相談することをおすすめします。

給料収入がある方

医者、弁護士、役員、会社員の方で給料を貰っている場合、以下のタイミングで不動産賃貸業の法人化を検討しましょう。

タイミング

理由

給与年収が938万円以上の場合

給与所得控除後の所得が695万円以上になり、個人の税率が法人より高くなるため

給料と不動産所得の合計が695万円以上の場合

個人より法人のほうが税率が低くなるため

追加購入を検討する場合

融資が受けやすくなるため

相続税対策を行う場合

不動産を法人に移すことで相続財産を減らすことができるため

短期譲渡を検討する場合

個人の譲渡所得税より法人税が低くなる可能性があるため

家賃収入のみの方

相続した不動産(住宅、貸店舗、倉庫、駐車場など)からの賃貸収入や、不動産投資によるインカムゲイン・キャピタルゲインで生活している場合など、以下のタイミングで不動産賃貸業の法人化を検討しましょう。

タイミング

理由

家賃収入が1,000万円超の場合

貸店舗、倉庫、駐車場など住宅以外からの収入が1,000万円を超えると消費税の課税事業者となるため

不動産所得が330万円超の場合

個人より法人のほうが税率が低くなるため

追加購入を検討する場合

融資が受けやすくなるため

相続税対策を行う場合

不動産を法人に移すことで相続財産を減らすことができるため

短期譲渡を検討する場合

個人の譲渡所得税より法人税が低くなる可能性があるため

これから不動産賃貸業を始める方

不動産賃貸業を検討中で、個人で始めるべきか、はじめから法人にすべきか、悩んでいる方向けに解説します。

個人で始めるほうが有利なケース

個人で始める方が有利なケースは、

・他に所得がなく、年間の不動産所得が330万円未満の場合
・給与所得が695万円以下の場合

です。

給与所得が695万円以上で、不動産所得が赤字になる方は、給与所得と不動産所得の赤字を相殺(損益通算)できるため、個人の方が有利です。

仮に年間の不動産収入が180万円前後の場合、所得税の税率は5%になりますので、法人税の税率(15%)よりも個人の税率のほうが低くなります。

この場合は個人事業の方が有利であると考えられます。

法人で始めたほうが有利なケース

法人の実績を早めに作ることができ、個人よりも信用があるため、融資審査において有利になります。

デメリットとしては設立に費用がかかること、法人税の申告は確定申告よりも複雑になるため税理士に依頼する費用がかかることです。

将来的に事業を大きくしていこうと考えている場合は、実績を作るためにも法人で始めた方がいいでしょう。

サラリーマンの方は就業規則に注意

お勤め先の就業規則によっては副業が禁止されている場合があります。

これは就職している家族を役員にする場合も同様ですので注意しましょう。

しかし副業を禁止しているといっても、労働収入による副業のみを禁止しているのか、それとも不動産投資も含めて禁止しているのかはその会社によりますので確認しましょう。

一般的にサラリーマンの方の場合、不動産賃貸は本業に支障をきたす可能性が低く、不労所得にあたるので副業とみなされないことが多いようです。

個人の不動産賃貸業を法人へ移す方法

個人所有の不動産を法人へ移す場合、「贈与」「売却」「現物出資」の方法が使われます。それぞれ長所と短所がありますので、自分に最適な方法を検討しましょう。

贈与による方法

個人から法人へ贈与する場合、個人所有の不動産を法人へ無償で譲り渡すという形になります。

メリットとしては「売却」や「現物出資」に比べて手続きが簡単であることが挙げられます。

しかし法人に資産を贈与すると、個人では時価で売却したものとされるため譲渡所得となり、法人では受贈益として利益になるため、それぞれに税金がかかるというデメリットがあります。

売却による方法

個人から法人へ売却する場合、個人と法人との間で売買を行うという形になります。

メリットとしては売買価格を自由に決められるということがあります。

しかし個人では譲渡所得となり、法人では登記費用や不動産取得税が発生するデメリットがあります。

また売買価格を適正な価格にしておかないと税務調査で問題となる可能性があります。

設立した法人に不動産を買い取るだけの資金力がない場合、減価償却により帳簿価格が下がった建物のみ法人へ売却し、土地だけ個人所有のままにしておく方法もよく取られています。その場合には、借地権に関する「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出しておく必要があります。

現物出資による方法

現物出資とは資金の代わりに資産を現物で出資をすることをいいます。

したがって現物出資による場合は、不動産を出資するという形になります。

メリットとしては資金がなくても法人を設立でき、資本金を増やすことができること、出資した資産を減価償却することで費用化できることなどが挙げられます。

しかし税法上はその資産をいったん時価で売却し、その金額を出資したと考えますので、個人においては譲渡所得になるというデメリットがあります。

不動産賃貸業における法人の活用例

不動産賃貸業に特化した法人は主に「管理型」「サブリース型」「所有型」の3つに分けられます。それぞれ法人の活用方法が異なりますので、ベストな経営戦略を税理士と一緒に検討しましょう。

管理型とは

管理型とは個人の賃貸物件を管理させる目的で個人自ら管理会社を作る方式です。

管理型のメリットとしては5%程度の管理手数料が経費となるため、個人の不動産所得を95%程度に抑えることができ、所得税を節税できます。

一方デメリットとしては、法人の業務の実体がなかったり管理手数料が高額であったりすると、税務調査で問題とされることが挙げられます。

サブリース型とは

サブリース型とは個人が所有する物件を法人で一括借り上げをし、第三者に転貸する方式です。

サブリース型のメリットは、家賃収入を全て法人で計上し、手数料を引いた金額を不動産オーナーへ支払います。

そのため、個人の不動産所得を85~90%程度に抑えられます

また管理型と同様に、法人の業務の実態や管理手数料について税務調査において問題とされることがあります。

所有型とは

はじめから高い収益が見込まれる不動産オーナーは所有型が最適です。

所有型とは個人が所有する物件を法人に売却し、法人名義で不動産業をおこなう形式です。

全ての家賃収入を法人で計上するため、個人に対する不動産所得をゼロにできます。

法人から個人へ役員報酬を支払うことで不動産所得から、税制上有利な給与所得(給与所得控除あり)へ置き換えることが可能です。

さらに不動産を法人に所有を移すことで、個人に対する相続財産の増加を防ぐ節税対策まで期待できます。

不動産賃貸業の法人化と会社設立方法

法人化して自己所有物件の賃貸・売買・管理をする場合、宅地建物取引士は不要です。

これから不動産賃貸業を始める方や、個人の不動産賃貸業を法人化する方も、以下の流れで会社を設立します。

会社設立の流れ

会社設立に必要なものから、設立方法まで順番に解説します。

定款を作成する

株式会社の場合は、会社の目的、商号、本店所在地を記載した定款を作成し、この定款を公証人役場で公証人に認証してもらう必要があります。

定款の認証には認証手数料・謄本手数料・収入印紙代などがかかります。

なお電子定款の場合、収入印紙代は不要になります。

一方、合同会社の場合も同様に定款を作成しますが、定款の認証は必要とされていませんのでその分コストを抑えることができます。

法人の経費は定款の事業目的に記した事業の範囲で認められるため、「不動産業以外の事業計画」なども考慮して作成しましょう。

資本金を準備する

株式会社は資本金1円から設立できます。

ただし、銀行などの融資を検討しているのであれば与信審査に影響しますので1,000万円未満を検討しましょう。

なお資本金を1,000万円以上で設立すると、設立した期から消費税の申告が必要となります。

また法人住民税は資本金が1,000万円を超えると均等割の金額が増加します。

資本金により税率が異なるため、戦略的に計画しましょう。

登記申請を行う

最後に法務局で設立登記を行います。

登録免許税が必要ですが、株式会社(最低15万円)よりも、合同会社(最低6万円)のほうが登記費用が低いため、費用面で有利です。

これら一連の手続きを税理士に相談できます。(株式会社の場合で7~10万円程度、合同会社の方が少し安く設定されていることもあります)

株式会社と合同会社の違いは?

不動産業を始めるうえで株式会社と合同会社で大きな優劣はありません。

しかし合同会社の認知度が低く金融機関によっては、融資を受ける際に不利になる場合があります。

将来の相続を見据えて、株式を家族へ譲渡するような資産運用を考慮する場合、合同会社にすべきか、株式会社にすべきか、費用だけで安易に決めず、必ず税理士に相談しましょう。

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