相手から源泉徴収し忘れた場合と納付漏れの対策

従業員の給与や、税理士報酬などから所得税を天引きし、一括で納付を行う源泉徴収の手続きを行うことは、人を雇ったり、税理士や弁護士へ報酬を支払う事業者の義務となっています。これらの人を源泉徴収義務者と言います。

源泉徴収を忘れたり、税額が漏れていたりすると、ペナルティが発生しうるため注意が必要です。

源泉徴収しないで給与や報酬を振り込んでしまった場合

給与や報酬を振り込んだ後になって源泉徴収をしていないことに気付くという場合もあるでしょう。

ここでは、その様な際の対処法をケース別に紹介します。

従業員から源泉所得税分を回収する

一つ目の手段として「従業員から源泉所得税分を回収する」という手段があります。

支給額から源泉所得税分を回収することによって、本来の支給額、本来の源泉徴収税額で手続きを行うことができます。源泉徴収義務者にとって一番損のない方法と言えるでしょう。

しかしこの手段は、場合によってトラブルの原因となる場合もあります。手続きを誤っていたことや、本来の支給額は所得税を差し引いた後の額であることをしっかりと説明する必要があります。相手方がしっかり納得した上で、源泉所得税分を回収しましょう。

取引先から源泉徴収分を回収する

第三者との取引で源泉徴収が必要な場合があります。例を挙げると、税理士報酬や弁護士報酬、ライターへの原稿料や、講演料に対しても源泉徴収が必要です。

他にも様々な取引が該当するため、詳細は以下のページを参考にしましょう。
源泉徴収が必要な報酬・料金等とは

当ケースでも、取引先から源泉所得税分を回収する方法があります。しかし、給与の場合と同様に、トラブルの危険性もあるため、相手方がしっかり納得した上で回収を行う必要があります。

自己責任として取引先から回収せず、自身が負担することも可能ですが、その場合であっても(源泉徴収税を徴収し忘れたことを)相手方へ伝えておくことで、次回の取引から源泉徴収しやすくなります。

源泉所得税の納付を忘れた(納付が漏れた)場合のペナルティは?

源泉所得税の納付を期限内に行わないと、様々なペナルティが発生します。

延滞税が発生する場合がある

期限内に納付の手続きが行われないと、法定納期限の翌日から「延滞税」が発生してしまします。

延滞税とは、法定納期限から納付した日までにかかる利息の意味合いを持つ税金です。

年によって税率は異なりますが、令和3年は納期限から2ヵ月までが年2.5%、それ以降は年8.8%の税率が本税額に対してかかります。

例えば、30万円の源泉所得税の納付が2ヶ月間(60日)遅れた場合は1,200円の延滞税が発生します。(300,000円×2.5%×60/365日≒1,233円(100円未満切捨て))

なお、延滞税については10,000円未満の税金には発生しません。

不納付加算税が発生する場合がある

延滞税の他にも「不納付加算税」が発生する場合があります。

不納付加算税とは、源泉所得税の納付手続きが行われない場合に発生する一種の制裁的な税金です。

税額の10%の額が加算税となるため、30万円の源泉所得税の納付を行わずにいると、3万円の不納付加算税が発生します。計33万円(+延滞税)の納付を行わなければならないのです。(300,000円×10%+300,000円=330,000円)

なお、正当な理由がある場合や、期限内に納付の意志があって期限後1ヵ月以内の納付した場合などは適応外となります。

財産を差押えされる可能性がある

源泉所得税の納付がいつまでも行われない場合、税務署から確認の連絡が入り、通知にて告知が行われます。それでも納付がされない場合は督促状が発送されます。

督促は差押えの前提要件となっているため、督促状を無視し続けると、最悪の場合財産が差し押さえられ、納付に充てられる可能性があるのです。

そのため、納付ができない事情がある場合であっても、税務署からの通知を無視してはいけません。必ず納付の相談へ行くようにしましょう。

源泉徴収の納付を忘れてしまった場合の対策

どのような理由であれ、今まで源泉徴収税を支払っていなかった場合には、適切な対応をする必要があります。

早急に納付手続きを行う

納付が期限後になると延滞税及び不納付加算税が発生します。延滞税については一日ごとに税額が増えていくため、自身の負担を軽くするためにも、早急に納付を行う必要があります。

放置することが一番良くありません。

もし、自身で計算ができないくらい、過去から手続きをしていなかった場合であってもそのままにせず、税理士や税務署に相談しましょう。

税金を納付できない場合

長期間源泉徴収をしていないと、積もりに積もって税額が高額になる場合があります。

もし一括での納付が難しい場合には、速やかに税務署へ相談しましょう。具体的な手続きとしては「換価の猶予申請」が考えられます。

換価の猶予を受けることにより、延滞税の負担が軽くなり、財産の換価もされなくなります。(多くの場合は差し押さえもされません)

「換価の猶予の対象になっている税金は納期限から6ヵ月以内のもの」「延滞税の軽減は申請請書の提出日から」という点からも早急に手続きを行うことを推奨します。

源泉所得税の納付額を間違った場合の対策

「納付は行っていたが、手続きが誤っていて納付漏れ(過誤納)があった」というケースもあるでしょう。

ここでは納付額のズレ、納付しすぎたケースではどのような対応を行うべきかを解説します。

納付側が足りない場合

もし納付額が足りていなかった場合には、足りていない部分を追加で納付する必要があります。納付されていなかった部分について延滞税が発生する場合もありますので、早急に納付手続きを行いましょう。

納付の際は、徴収高計算書(納付書)の「摘要欄」に「〇月分追加納付分」などと記載し、税務署の職員が理解できるようにしましょう。

納付側が多い場合

税金を納めすぎてしまった場合は2種類の対応があります。

税金を還付してもらう

1つ目は「多く納めすぎた税金を還付してもらう」手続きです。

「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書」という書類を提出することによって手続きを行うことができます。その際に、納めすぎた月の徴収高計算書(納付書)の控えと、過誤納が生じたという事実を確認できる帳簿の写し(預り金の総勘定元帳など)を添付する必要があります。

納付予定の源泉所得税に充当してもらう

2つ目は「今後払う源泉所得税に充当してもらう」手続きです。

「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額充当届出書」という書類を提出することによって手続きを行うことができます。還付の手続きと同様に、徴収高計算書(納付書)の控えと、預り金の総勘定元帳などの帳簿の写しを添付する必要があります。

次回以降に源泉所得税を納付する際は、納付書の税額欄に充当分を差し引いた額を記載して「摘要」欄には「誤納充当額○○円」と記載しましょう。

こちらの手続きは「給与の支払の場合のみ(税理士報酬等は不可)」「充当に3ヵ月以上かかる場合は還付の請求を行う必要がある」等の制限があります。

まとめ

源泉徴収を行うことは、給与支払者や一部の報酬支払者の義務となっており、手続きを行わないことによって、様々なデメリットが発生します。

そのため、今まで源泉徴収を忘れていた場合は早急に対策を行いましょう。

ZEY株式会社 税務部門監修

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