タワーマンション節税は今後も有効?税制改正や否認リスクに要注意
相続税対策で「タワーマンション節税」というキーワードを聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。タワーマンション節税はタワーマンションの特性を生かしたスキームで、大きな節税メリットがあります。しかし、それゆえに税制改正や租税回避とみなされるリスクも考えなくてはなりません。この記事ではタワーマンション節税の仕組み、リスクとその回避方法などについて解説します。
タワーマンションの定義
タワーマンションとは高層マンションであることはイメージできますが、明確な基準はあるのでしょうか。最初に、タワーマンションの定義を確認しておきます。
目安は高さ60m以上・20階建て以上
タワーマンションには階数や高さに法律上の明確な定義はありません。ただし建築基準法20条1項一号では、高さ60mを超えた建物を超高層建築として厳しい構造強度基準を適用しています。高さ60mを階数に直すと、20階建てに相当します。そこで、高さ60m以上、階数で20階建て以上の住居用超高層建築物をタワーマンションと呼ぶのが一般的です。
法令で厳しく求められる構造強度と安全性
超高層建築物には、次のような一般の建築物に比べて高水準の構造強度や安全性が求められています。
- 国土交通大臣の構造強度の認定必須:(建築基準法)
- 非常用エレベーターの設置義務:(建築基準法)
- 緊急救助用スペース(高さ100m以上の場合、緊急時用のヘリポート)設置義務:(消防法)
- 航空障害灯設置義務:(航空法)
タワーマンション(タワマン)節税の仕組み
多額の現預金を持っている人がタワーマンションを購入すると、相続税を節税できます。なぜタワーマンションが節税につながるのか、その仕組みを解説します。
相続税の評価では、不動産は現金よりも価値が低くなる
相続税の課税の基礎になる評価額は、財産の種類によって評価方法が異なります。中でも不動産は時価より低く評価される財産です。相続税の算出において土地は路線価で評価され、建物は固定資産税で評価されます。一般的に路線価は時価の約8割、固定資産税評価額は時価の約7割と言われています。アパートなどの賃貸用物件であれば、土地も建物もさらに評価減が可能です。
また、居住用の土地、賃貸事業を引き継いだ場合の土地は、一定の条件を満たすことで相続税評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」が適用されます。
タワマン購入が相続税の節税となるスキーム
分譲マンションの相続税評価額は、建物部分(専有している居住部分)と敷地部分(マンションの土地全体を各戸の持ち分で按分したもの)に分けて求めます。
敷地の相続税評価額が低くなる
タワーマンションは特に土地の評価が低くなりやすい不動産です。集合住宅は一戸建てに比べ持ち分の土地の面積が小さく、土地の部分の相続税評価額が低くなります。タワーマンションは一般的なマンションに比べて、1棟が多くの戸数に分かれます。敷地の共有者が多いと各戸の敷地の持ち分割合は少なくなり、マンション1戸分の価値に占める土地の割合は低くなるというわけです。
高層階ほど時価と固定資産税評価額の差が大きくなる
タワーマンションの高層階を購入すると、購入価格と固定資産税評価額の差を相続税対策に活用できます。通常、タワーマンションの販売価格は高層階になるほど高額です。しかし、固定資産税評価額は高層階と低層階で差はありません。タワーマンションの高層階を購入することは、現預金をより評価の低い資産に換えることになります。その結果、相続税を減らす効果が期待できるのです。
賃貸用と小規模宅地等の特例で評価額が下がる
取得したタワーマンションを第三者に貸し出す場合、自分が住むよりも相続税評価額が下がります。また、小規模宅地の特例の条件を満たす場合、敷地部分の最大80%まで評価減になることが特徴です。
タワマン節税で注意すべきポイント
タワーマンションは物件の特性から、相続税対策に非常に有効な不動産と言えます。しかし、見過ごせないリスクもあるため、注意が必要です。
投資リスクがある
相続税対策で購入したタワーマンションが売却時に大幅に値下がりしてしまうと、トータルではマイナスになるかもしれません。タワーマンションの節税スキームは、物件の資産価値が相続発生時に変わらないことが前提です。最近では、タワーマンションは供給過剰であるとも言われています。相続対策で物件を取得する場合でも、将来の値下がりリスクなど不動産投資として合理的であるかを考えることが大切です。また、相続税対策は、タワーマンション節税だけではありません。基礎控除や配偶者控除などを活用して、どの程度の相続税が生じるのかを把握してから考えましょう。
課税強化の動きがある
平成29年度税制改正でタワーマンションの固定資産税が見直されました。この改正では、固定資産税評価額までは変更されませんでしたが、今後は課税強化につながる見直しが行われる可能性が高いと考えられています。
租税回避行為と認定されるリスクがある
タワーマンションの購入が節税目的であることが明らかな場合、租税回避行為とみなされ、重加算税を課される可能性があります。また、タワーマンション節税は財産評価基本通達6項により否認される可能性もゼロではありません。財産評価基本通達6項には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という文言があります。
タワーマンション節税の否認事例
以下、財産評価基本通達6項により否認されたタワーマンション節税の事例(平成23年7月1日裁決)を紹介します。
タワーマンションを約3億円で購入した翌月に所有者である父が死亡し、遺族は評価額を約6,000万円として相続税の申告をしました。その後、直ちに購入価格と同等の金額で売却したということです。東京国税局は、相続税評価額の約6,000万円ではなく、タワーマンションの購入価格である約3億円で申告すべきと追徴課税を行いました。
タワーマンションに対する固定資産税の改正と今後への影響
先述した平成29年度税制改正でのタワーマンションの固定資産税の見直しに関連して、今後タワーマンション節税への課税が強化されることが予想されます。タワーマンション節税は今後も有効なスキームであり続けるのでしょうか。
固定資産税の改正とは
平成29年度の税制改正で、高さ60mを超える居住用建築物の固定資産税は中層階から1階下がるごとに約 0.26%減額され、1階上がることに約 0.26%増額されるようになりました。この規定は平成30年度から適用され、平成 29 年4月1日前に売買契約が締結された物件には適用されません。また、平成29年1月1日以前に完成している物件を平成30年以降に中古で購入した場合も適用除外です。
相続税に影響はあるのか
平成29年度の税制改正によるタワーマンションへの課税の見直しは固定資産税の計算方法に限定されたものであり、固定資産税評価額への変更はありませんでした。よって、タワーマンション購入による相続税低減効果は今でも失われていません。しかし、「行き過ぎた節税」も散見されるようになり、税負担の公平の観点からタワーマンション節税は国税当局から問題視されるようになりました。国税庁は平成27年10月29日の記者発表で「節税目的であることが明らかな場合には財産評価基本通達6項を適用」する旨の注意喚起を行いました。今後はタワーマンションの高層階の評価の引き上げなどを注視する必要があります。
租税回避行為とみなされないために!否認リスクを低くするには?
タワーマンション節税では、税務署から明らかに節税目的であるとみなされると、申告内容が否認される可能性があります。ここでは否認リスクを低くするためのポイントを解説します。
相続直前の購入と相続直後の売却は避ける
先述したタワーマンション節税の否認事例にもあるとおり、相続が発生する直前の物件購入と発生直後の売却は避けましょう。被相続人が死亡する直前にタワーマンションを購入し、死亡後直ちに売却すると、「著しく不適当な節税行為」とみなされる可能性が高まります。その場合、相続税評価額で申告しても、販売価格を基準に相続税を課税されるおそれがあることを頭に入れておきましょう。相続税対策のためにタワーマンションを購入するなら、できるだけ早く購入すべきです。さらに相続した後、税務調査が終わるまでは売却しないほうが良いでしょう。相続税の税務調査の実施は申告後1、2年が多く、5年を過ぎれば行われることはありません。
被相続人自らが取引する
タワーマンションの購入にあたっては、被相続人本人ではなく代理人や後見人が取引をすると、後々の否認リスクにつながりやすくなります。不動産取引が効力を持つには、取引の当事者に判断能力が必須です。被相続人が健康で意思表示を明確にできるうちに購入するようにしましょう。
賃貸物件としてできるだけ長期間他人に貸す
タワーマンションの取得が節税目的と目を付けられないためには、明確な取得目的に則り、利用することが大切です。たとえば、賃貸経営のために取得し、長期間第三者に貸し付けた実績があれば、租税回避とみなされる可能性は低いでしょう。
タワマンの所有期間が5年超になると所得税が安くなる
相続したタワーマンションを売却して利益が出た場合、譲渡所得として課税されます。ここからは譲渡所得にかかる税金について解説します。
不動産を売却して得た利益には所得税がかかる
不動産が取得金額より高く売れた場合、差益に対して譲渡所得として所得税や住民税がかかります。不動産の譲渡所得に対する税金は、給与所得などの他の所得と分けて計算する分離課税方式です。譲渡所得金額は以下の計算式によって求めます。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
親から相続した物件を売る場合は、取得費については親がその物件を購入した時の購入代金などから計算します(取得費不明の場合、売却価額の5%を概算取得費とみなす)。
なお、売却によって利益が出なかった場合は、課税されません。
税率は不動産の所有期間により異なる
不動産譲渡所得の税金は、物件を取得してから5年超かどうかで適用される税率が異なります。所有期間5年以下の所得を短期譲渡所得、5年超の所得を長期譲渡所得とし、以下のような税率が適用されます。
- 短期譲渡所得:譲渡所得×39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
- 長期譲渡所得:譲渡所得×20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
取得日と所有期間の考え方
なお、相続によって取得した物件を売却した場合の所有期間は、被相続人が物件を取得した日を引き継ぎます。譲渡所得税でいう5年超とは、所有期間が5年を迎えた日の翌年の1月1日以降に売却した場合のことです。例えば、令和3年中に売った場合、その物件の取得が平成27年12月31日以前であれば長期譲渡所得に、平成28年1月1日以後であれば短期譲渡所得になります。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
タワーマンションを売却し、譲渡所得が500万円の場合の短期譲渡所得と長期譲渡所得の税額を比較してみましょう。
- 短期譲渡所得の場合:198万1,500円(500万円×39.63%)
- 長期譲渡所得の場合:101万5,750円(500万円×20.315%)
所有期間5年以下の売却は譲渡益にかかる税金が高くなるだけでなく、相続税の申告内容が否認されるリスクも大きくなるため、なるべく短期での売却は避けたいところです。
まとめ
タワーマンションによる節税は効果的な相続税対策の1つです。しかし、それゆえに将来の税制改正リスクや租税回避行為とみなされる可能性があり、先行きは不透明と言えます。今回、紹介したタワーマンション節税の否認事例のような失敗を避けるためにも、自己判断する前に税理士に相談しましょう。