個人所有の不動産を法人へ移すメリットと節税効果とは

個人の不動産を法人へ移す節税効果

個人の所得税を軽減できる

不動産を個人で保有している場合、その所有者に全ての不動産収入が支払われるため、個人に100%集中し、結果的に所得税の負担が大きくなります。

一方で、法人が不動産を保有している場合、法人の役員や従業員に「いくら給与を支払うか」「誰に給与を支払うか」を管理できるため、自分に33%、妻に33%、子に33%のように所得を分散することが可能になります。

税金の負担額は、収入に対して計算されるため、一人当たりの収入を下げることがポイントです。

たとえば、年間500万円の利益が出る不動産を個人で保有する場合、税金の金額は486,500円となります。(※基礎控除48万円のみ考慮)
一方で、年間500万円の利益が出る不動産を法人で保有する場合、5人の従業員に100万円ずつ給与として分散すると、法人も個人も、所得に対する税負担はゼロとなります。

法人のほうが税率で有利になる

法人で発生した利益については、法人税が課されます。
一方、個人に発生した利益については、所得税が課されます。

個人に対して課される所得税は累進課税制度となり、所得金額が大きくなるほど税率が高くなり、高額所得者は非常に大きな税負担となります。

一方、法人に対して課される法人税の税率は一律であるうえ、中小企業は軽減税率が適用されるため、所得税の税率より有利になることがあります。

不動投資を行って、所得金額が2,000万円となった場合で考えてみましょう。
個人に2,000万円の所得が発生した場合、所得税と住民税の額は、7,069,200円となります。(※基礎控除48万円のみ考慮)
これに対して、法人に2,000万円の所得が発生した場合、その法人税と地方税を合わせた実効税率を乗じると、税額は6,340,000円となります。

売却損を損益通算できる

個人で保有する不動産を売却した場合、譲渡所得が発生します。この譲渡所得は他の不動産所得や給与所得などの所得と分けて計算が行われるため、不動産の売却損が発生しても、他の所得金額と損益通算(合算)することはできません。

たとえば、個人で保有していた不動産を売却して500万円の売却損が発生しても、他の給与所得や不動産所得と売却損を合算することはできません。

一方、法人が所有する不動産を売却した場合、売却損を他の利益と損益通算(合算)できます。
法人は個人のルール(税法)と異なり、所得をまとめて計算します。

たとえば、法人で不動産の売却損が500万円発生した場合、他の所得と売却損を合算して税負担を軽減することができます。

個人より経費の幅が増える

不動産を保有する個人事業主が確定申告をする際、経費と認められるのは、不動産の賃貸事業に必要なものに限られます。
事業に直接関係ない行為については、税務署でプライベートな支出と見なされ、経費を否認されるケースがあります。

たとえば、個人が不動産業を行う場合、車の必要経費はプライベートと事業を分ける必要があります。
しかし、法人で車を購入して減価償却を行ったり、ガソリン代や車検代を支払ったりした場合、すべて法人の損金(経費)にできます。さらに法人では、建物の大規模な修繕に備えて、生命保険に加入することがあります。
法人は大規模修繕に備えた生命保険の掛金を損金(経費)にできますが、個人の場合は必要経費と認められません。

相続時の税金を軽減できる

個人で保有する不動産は相続が発生すると、すべて相続税の課税対象となります。
しかし法人で保有する不動産は、その法人の株式に対して相続税がかかります。

法人設立時に配偶者や子に株主になってもらうことで、相続時に高い相続税を支払う必要がなくなります。

また、1年あたり110万円の基礎控除がある贈与を利用して、株式を子供や孫に贈与しておくことも可能です。
法人化すれば、相続税の負担を軽減する効果が高くなります。

老後資金を確保できる

厚生年金に加入できる

法人化すれば厚生年金に加入できるのも、個人にとって大きなメリットです。
個人事業主は国民年金にしか加入できないため、老後の資金を十分に確保することができません。
しかし、厚生年金に加入すれば、将来的に国民年金だけでなく、厚生年金も受給することができます。
厚生年金に加入すれば社会保険料の負担が発生しますが、法人の損金(経費)とすることができるため、税負担も軽減できます。

退職金を積立できる

法人の役員や従業員を退職した際には、法人から退職金を受け取ることができます。
退職金は給与所得と比較すると、きわめて小さな税負担で済みます。
そのため、退職金を受け取ることは、個人としては大きなメリットとなるのです。
また、法人は支払った退職金を損金とすることができるため、法人にとってもメリットがあるのです。

個人の不動産を法人へ移すデメリット

もちろんいいことばかりではありません。法人に移すデメリットを解説します。

個人の手取りが減る可能性あり

個人で保有していた不動産を法人に移した場合、個人の手取りが減ることがあります。
これは形式上、不動産物件からの賃貸収入を法人に入金後、改めて個人に給与として支払うためです。
個人保有の場合、賃貸収入はすべて個人の収入として自由に使うことができました。しかし法人の口座に入金されたお金を個人的な理由で出金したり、使うことはできません。※税法上、社長も株主も法人のお金を勝手に使用できません。

銀行ローンを移す手間とリスクがある

個人で不動産を購入する際、銀行のローンを利用するケースが多いと思います。
このローンを利用する際には、不動産に抵当権を設定し、不動産から発生する収益を原資に返済していく場合があります。
しかし、不動産を法人に移す場合、抵当権をどのように取り扱うのかが問題となります。
銀行ローンの名義は個人のままで、不動産の所有権を法人に移転できるか否か、銀行へ確認が必要です。最悪の場合、銀行の承諾が得られないことも考えられます。

決算申告書類作成の手間がかかる

個人事業主も法人も、毎年不動産所得を計算し、確定申告が必要です。
個人の場合、決算書や収支内訳書の作成で完結します。

法人の場合、法人税の申告書と貸借対照表や損益計算書、勘定科目内訳明細書などの書類作成が必要です。
特に法人税申告書は、クラウド会計ソフトに未対応のケースが多く、自力での作成は非常に困難です。
そのため法人税申告書の専門知識をもった人材(経理)を雇用したり、税理士に依頼する必要性があります。

社会保険料のコストが増える

法人は厚生年金や健康保険などの社会保険に加入しなければなりません。
個人事業主の国民健康保険は個人の負担で済みますが、社会保険は法人と個人両方に負担義務が生じます。
社会保険料は役員報酬や給与の金額から算出されるため、法人化した場合、給与等の金額をいくらにするか、慎重に考える必要があります。

多額のコストがかかる

法人を設立するためには、法務局で登記手続きが必要です。
この時、法人設立費として印紙税や登録免許税などの法定費用が発生します。
また、不動産を個人から法人に移す際にも、法務局で登記を行います。
この時も、名義変更の費用として印紙税や登録免許税を法務局に支払う必要があります。

さらに、登記手続きを行う際に、司法書士にその業務を依頼する場合があります。
この場合、司法書士に対する手数料も支払わなければならず、多くの支出が発生します。

相続時に不利になる場合がある

不動産を保有する個人が亡くなった場合、その不動産が相続財産となります。
個人が銀行のローンを利用して不動産を購入した場合、相続時の財産の金額からローンの残高を控除(マイナス)できます。
結果として、ローンの残高が多い場合には、相続税の負担が軽減されます。

一方、法人が不動産を購入し、法人が銀行のローンを組んで不動産を購入した場合、法人のローンの残高を個人の相続財産から控除(マイナス)することはできません。

個人の不動産を法人へ移す方法

個人所有の不動産を法人へ移す方法は主に3つあります。個人から法人格へ財産を移す行為は課税対応になりますので、慎重に検討が必要です。

贈与で移す方法

個人の財産を法人に贈与する方法です。
贈与とは、個人から法人へ財産を「あげる」ことをいいます。
贈与した個人は、法人からその対価を受け取ることはありません。

ただし、不動産の贈与に対して税金が発生します。
個人は不動産を時価で法人に譲渡したものとみなされ、所得税が課されます。
また、贈与を受けた法人は、不動産の時価を受贈益として計上し、法人税を負担しなければなりません。

売却して移す方法

個人保有の不動産を、法人が買い取る方法です。
この場合、不動産をいくらで売買するかが一番の問題となります。
時価で売買しなければなりませんが、帳簿価額(減価償却後の価格)を時価として売却することが一般的です。
この場合、売却した個人には譲渡益が生じないため、所得税や住民税の負担も発生しません。

しかし、法人が個人から買い取る資金をどのように調達するかが大きな問題です。
法人が銀行から融資を受けるのが1つの対策です。
金融機関から融資を受けるためには、法人の審査が必要なため、実績のない法人が融資を受けるのは大変です。
2つ目の対策としてよくあるのが、法人が個人から買い取るお金を未払金として計上し、毎月個人に返済する方法です。

個人の不動産を法人へ売却する方法がよく用いられます。

現物出資で移す方法

不動産オーナーが法人を設立する際に、金銭ではなく不動産を出資する方法です。
不動産を現物出資することで、不動産の所有権が個人から法人になるため、法人設立に必要な出資金を別に用意する必要がありません。

ただ、現物出資を行うためには出資する資産の鑑定評価が必要となります。
不動産鑑定士に鑑定を依頼する必要があり、その鑑定に数十万円ほどの費用がかかります。
法人設立のための出資金は必要ありませんが、実際には1番コストがかかる方法です。

個人の不動産を法人へ移す際に必要な予備知識

土地は個人名義で建物だけ法人に移す利点とは

不動産を法人に移す際、土地の名義は個人のままで、建物の名義のみ法人へ移すことがあります。
土地は個人、建物のみ法人名義にする理由は、建物の価格は下がる一方、土地の価格が高く、設立したばかりの法人に資金力がなく買い取れないのが実情です。
また、法人が土地を購入しても減価償却費を計上できず、税負担の軽減には役立たないことも理由です。

個人で保有している土地を貸地とすることで、相続税評価額を20%減額できるのも、個人にとってメリットとなります。

土地の無償返還届出書を税務署に提出する理由

土地を個人が所有し、その上に法人名義の建物が建っている場合、その建物の所有者(法人)に借地権(土地を借りる権利)が発生します。
通常、誰かに不動産を賃貸する場合、借主(借りる側)が借地権(土地を借りる権利)に対してお金を支払います。

しかし自分で設立した法人が借主(借りる側)となる場合、そのような取引を行いません。
そうすると法人は借地権(土地を借りる権利)を無償で得たこととなるため、借地権の金額に相当する受贈益が発生し、法人税がかかるのです。
そこで借地権に対する課税を避けるため、税務署に土地の無償返還届出書を提出する必要があります。

適切な売買金額の設定方法

個人から同族会社の法人へ不動産を売却する際、売却金額を低く設定することもできてしまいます。
しかし、時価の2分の1未満の金額で売却した場合、時価で売却したものとみなす規定がありますので、あまり低すぎる金額で売却すると、かえって個人の税負担が増えてしまいます。

そこで、売却金額が、税法の定める時価であることを証明するため、不動産鑑定士に鑑定を依頼して、その金額で売却する方法や、税務上の計算方法に基づいて算定した帳簿価額を時価として売却することが得策です。

個人の不動産を法人へ移す際は有利な方法を検討すべく、税理士へ相談することをおすすめします。

ZEY株式会社 税務部門監修

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