フリーランスが法人化するメリット・デメリット・最適なタイミングとは?
フリーランスとして売り上げが安定している人は、法人化したほうが有利な場合があります。この記事では、法人化のメリットやデメリット、法人化すべきタイミングについて解説します。
フリーランスが法人化するメリット
フリーランスが法人化するメリットとして、信用がアップすることと節税効果があります。
信用がアップし優良案件を受注しやすくなる
フリーランスが法人化すると、社会的信用がアップします。会社員からフリーランスになると、新規の取引先からの信用が得にくい、ローンが組みにくいなどの不利益を感じることが多いのではないでしょうか。これらは、フリーランスの社会的信用の低さが原因の1つです。法人化することにより、大手企業の優良案件を受注できる可能性が高くなります。
事業を拡大するチャンスが広がる
法人化して取引先が変わってくると、自分1人ではこなしきれない規模の案件を相談される可能性もあるでしょう。そのような案件を一括して受注し、自分以外の協力者と仕事ができれば収益を増やすことができます。1人法人で活動することもできますが、社員などの協力者を集めて組織化も可能です。
個人にはない節税メリットがある
フリーランスが法人化するとは、会社を作って社長になることです。社長になると、会社から給料(役員報酬)をもらいます。そのことにより、個人事業主よりも税のメリットが多くなるのです。
給与所得控除が使える
社長が会社から給料を受け取ると、(引かれる所得税を減らす)給与所得控除が受けられます。個人事業主の場合、売り上げから経費を差し引いた金額(所得)に所得税がかかります。一方、会社の所得を給料として受け取った場合、社長本人は給与所得控除が受けられます。つまり、売り上げから経費を差し引き、さらに給与所得控除で所得が少なくなるというわけです。そのため、かかる税金が抑えられ、手取りが増えることになります。
法人から退職金が受け取れる
会社は社長に対して退職金を支払うことができます。退職金は妥当な金額であれば、会社の経費にすることが認められています。受け取る社長にとっても退職金は給料に比べてかかる税金が少なく、手取りが多くなります。フリーランスの老後に不安はつきものです。法人化して退職金制度を活用することは、解決策の1つになります。
自宅を社宅にして家賃を経費にできる
法人化すると、自宅の賃貸借契約を会社名義にすることにより、家賃を経費にできます。フリーランスは自宅兼事務所で仕事をするケースも少なくありません。その場合、家賃のうち仕事として使う分を経費とすることが認められています。一方、会社が自宅を借り上げた場合、居住部分の家賃も経費にできます。その場合、社長本人は家賃の一部を負担する必要があります。
客先で仕事をする場合、日当が受け取れる
フリーランスが法人化すると、客先で仕事をする場合に日当(出張手当)を受け取れます。例えば、ITエンジニアのように客先で仕事をする場合、交通費や宿泊費などでかかった金額を経費にできます。しかし、法人化すると実費の経費の他に、日当を支払うことも可能です。会社が出張旅費規程を作り、その中で決められた日当は会社の経費になります。また、日当を受け取った本人には課税されず、社会保険料もかかりません。
生命保険料を経費にできる
法人では、役員にかけた生命保険の保険料を経費にする対策があります。個人事業主の場合、事業主にかけた保険料は事業の経費にはできません。保険料の一部が生命保険料控除の対象になるだけです。しかし、会社が社長に対してかけた生命保険は、保険の種類によっては経費にできます。具体的な保険種類としては、掛け捨ての定期保険などです。
消費税の課税を先延ばしにできる
法人化すると、2年間は消費税の納付が免除されます。これは、取引先から預かった消費税を納付せずに会社のものにできるという意味です。非常に大きな節税メリットと言えます。
フリーランスが法人化するデメリット
ここまで、法人化のメリットを見てきましたが、デメリットについても確認していきましょう。
役員報酬が年度ごとに固定される
会社から社長が受け取る役員報酬(給料)は年度の最初に決まり、途中で変更することはほとんどできません。会社の業績がよかったからといって、年度の途中で給料を増やすことはできないことに注意が必要です。
社会保険料の負担が大きい
法人化すると、社長1人の会社でも社会保険の加入が義務付けられています。フリーランスのときの国民年金・国民健康保険に比べると負担が大幅に重くなる場合が大多数です。特に金額が固定されている国民年金に比べ、厚生年金・健康保険は収入によって保険料が変わるため、負担が増える人が多くなります。
国保・国民年金と社会保険の費用を比較
以下は個人事業主と給与所得者の年金・健康保険料の負担を比較した表です。
個人事業主(所得900万円)の場合 | 法人(役員報酬900万円)の場合 | |
年金 | 19万9,320円(国民年金) | 71万3,700円(国民年金・厚生年金)×2 |
健康保険 | 76万1,776円(国保) | 44万2,800円(協会けんぽ)×2 |
合計負担額 | 96万1,096円(社会保険料)のみ | 115万6,500円(社会保険料)×2 |
全国健康保険協会令和3年度保険料額表(東京都)
法人の場合、社会保険料は会社と個人で折半です。よって、法人が負担する社会保険料は2倍になります。
赤字でも支払う税金がある
法人の場合、赤字決算でも法人住民税の均等割だけは納付しなくてはなりません。これに対し、個人事業主は赤字の場合に支払う税金はありません。法人住民税の均等割は法人の資本金や従業員の人数によって税額が決まるため、赤字でも必ず支払わなければなりません。東京の場合、資本金1,000万円以下・従業員50人以下だと均等割額は7万円となります。
フリーランスが法人化する収入の目安とタイミングは?
フリーランスが法人化を考える場合の収入の目安はどのくらいでしょうか。
売上高1,000万円超
法人化を検討する1つ目の基準が「売上高1,000万円」になります。年間の売上高が1,000万円を超えると、2年後から消費税の納税が義務付けられます。法人化をすると、個人事業主としての消費税の納税義務は免除されます。そして、改めて法人として2年間の消費税の納付が免除されるのです。よって、1年間の売上高が1,000万円を超えそうになったら、法人化を検討してみましょう。
課税所得800万円以上
2つ目の基準は「課税所得800万円以上」です。課税所得とは売上から経費を引いた金額のことを言います。法人と個人では所得に対する税率が違います。
法人税の税率は課税所得年間800万円以下の部分については15%,800万円超の部分は23.2%です。
一方、個人の所得税は課税所得により5%から45%の7段階に分かれています。
課税所得800万円の法人税と所得税を比較
課税所得800万円の場合の法人税額と所得税額を比較してみます。
法人の場合
800万円 × 15% = 120万円
フリーランスの場合
800万円 × 23% – 63.6万円(控除額)= 120.4万円
課税所得800万円では、所得税額が法人税額を上回ります。よって、課税所得800万円以上になったら法人化を検討するタイミングと考えられます。
報酬の設定や経費の使い方でタイミングが変わる
ここまで2つの基準を紹介しました。しかし、安定した売上が見込める場合は課税所得500万円程度でも法人化のメリットが期待できる場合があります。法人化とは、法人と個人の2つの財布を持つことです。税率の低い法人にお金を残して、家賃や生命保険料のような経費を負担してもらうこともできます。その結果、個人事業主よりトータルで多くのお金を残すことが見込めるのです。
法人化すべきか否かは税理士に相談すべき
フリーランスは法人化によって節税できるポイントも多く、売上が安定している場合は検討の価値があるといえます。しかし、法人を設立しただけでは、節税の目的は達成できません。最適な役員報酬の設定、各種規定の準備など、既存の仕事をしながら実行するのはハードルが高いのではないでしょうか。
法人化を検討したら、法人設立に強い税理士に法人化した場合のシミュレーションを依頼しましょう。
フリーランス法人化まとめ
フリーランスにはこれといった有効な節税対策がありません。一方、法人化をした場合、活用できる控除や経費の種類が増えるため、個人事業主より使えるお金が多くなる場合があります。売上が安定している場合、法人化の効果を試算してみましょう。その際、税理士に相談するのも1つの方法です。