相続税を節税するための税金対策のポイントとその具体的な方法11選
相続にかかる税金を減らすには、生前贈与や不動産の活用などさまざまな節税対策があります。この記事では、相続税を減らすためのポイントとその具体的な方法について解説します。
相続税を減らすための3つのポイント
相続税の負担を少なくするためのポイントは、大きく分けて以下の3つです。
- 相続財産を少なくする
- 相続税の基礎控除額を増やす
- 税額軽減制度や特例を活用する
ポイント1:相続財産を少なくする
相続税は、被相続人(亡くなった人)が死亡した時点の財産の評価額合計に対してかかります。
相続財産の金額が大きいほど相続税の負担も大きくなるため、相続の開始までに、相続財産をできるだけ少なくしておくことが節税対策の基本となります。
とはいえ、相続税対策のために相続人が本来相続する財産をただ単に減らしてしまうのでは意味がありません。
相続財産を少なくするためには、亡くなる前に生前贈与などをして「相続財産そのものを減らす」あるいは「相続財産の評価額を下げる」という2つの方法があります。
「相続財産の評価額を下げる」というのは、例えば次のような場合です。
相続税の計算では、土地や家などは、一般的に実際の売買価格(時価)よりも低い基準で評価されます。
仮に5,000万円の現金を持っていた場合、現金のまま相続すると当然のことながら5,000万円の評価となります。しかし、その現金で土地を購入して相続すると(時価は5,000万円ですが)相続税の計算上は3,000万円で評価され税金が少なくなるというケースもあり得るのです。
ポイント2:相続税の基礎控除額を増やす
相続税の基礎控除とは、相続財産から差し引くことができる金額のことをいいます。
基礎控除は「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」で求めます。法定相続人とは、民法で定められている被相続人の財産を相続できる権利を持つ人です。
例えば、法定相続人が3人の場合の基礎控除額は4,800万円( = 3,000万円 +(600万円 × 3人))となり、相続財産の合計額から4,800万円を差し引いて相続税額を算出します。
法定相続人の数が多ければ多いほど基礎控除額が大きくなるため、結果として相続税が減ることにつながります。
法定相続人の数を増やす方法には、例えば養子縁組があります。ただし、法定相続人の数に含められる養子の数には一定の制限があります。
ポイント3:税額軽減制度や特例を活用する
相続税には相続人それぞれの事情に応じたさまざまな税額軽減制度や特例があります。
これらを上手に活用することは、相続税対策に必要不可欠です。
相続税対策の具体的な方法
相続税を減らすための3つのポイントを踏まえて、具体的な税金対策について確認していきましょう。
相続税の税金対策は大別すると4つ
相続税対策の方法は大きく次の4つに分けられます。
- 生前贈与をする
- 不動産を活用する
- 生命保険を活用する
- その他の控除制度などを利用する
このあと、それぞれについて細かく確認していきましょう。
生前贈与をする
相続税対策としてまず挙げられるのが生前贈与です。
贈与には贈与税がかかる
生きているうちに個人の財産を別の個人に無償で譲り渡すことを「生前贈与」といいます。
生前贈与をすると、その分、相続税の対象となる相続財産を減らすことができるため、相続税は低く抑えられます。ただし、贈与には贈与税がかかる点に注意が必要です。
生前贈与を活用するためには、贈与税と相続税を合わせて総合的に考えることが重要になります。
贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件に該当する場合には「相続時精算課税」を選択することができます。
相続税対策① 暦年課税制度なら年間110万円まで税金がかからない
1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額から贈与税の基礎控除額110万円を差し引いた残りの金額に対して贈与税がかかります。これを暦年課税制度(暦年贈与)といいます。
1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。ただし、仮に年間110万円以下であっても、毎年同じ相手に同じ金額を贈与し続けると、定期贈与とみなされて贈与税が課税されてしまう場合があるので注意しましょう。
また、相続開始前の3年以内の贈与で取得した財産は、相続税の計算の際に相続財産に持ち戻す(加算する)ことになるため、この点にも気をつけなければなりません。
なお、2024年以降の贈与から、相続税の対象となる期間が順次延長され、最終的には相続開始前7年以内の贈与が対象になります。
参考:相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に贈与する際に、2,500万円までは贈与税がかからない制度です。2,500万円を超えた金額に対して、20%の税率で贈与税がかかります。
相続時精算課税制度を使うことで贈与税は節税できますが、この制度を利用して贈与を受けた財産は、相続の際に相続財産に加算しなければならないので留意しましょう。また、いったん相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻すことはできません。
暦年課税なら110万円までの基礎控除内であれば申告は不要ですが、相続時精算課税では少額の贈与でもすべて申告が必要になるという煩わしさもあります。利用にあたっては慎重に検討しましょう。
相続税対策② 贈与税のかからない特例を利用する
贈与税の配偶者控除なら2,000万円まで
贈与税の配偶者控除とは、居住用不動産または居住用不動産の購入資金を配偶者に贈与する場合、最高2,000万円まで差し引くことができるという特例です。
以下の要件を満たすことで利用できます。
- 婚姻期間20年以上の夫婦間の贈与である
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住用不動産に住み、その後も住み続ける見込みである
暦年贈与の基礎控除110万円と併用もできるので、合わせて2,110万円までなら贈与税がかかりません。ただし、「配偶者の税額軽減」や後述する「小規模宅地等の特例」を利用したほうが節税効果は高いといえるでしょう。
また、贈与税の配偶者控除を利用する場合、不動産取得税や登録免許税がかかる点にも注意しましょう。相続の場合には不動産取得税はかかりませんが、贈与の場合はかかります。登録免許税は相続の場合もかかりますが、贈与の方が税率が高くなります。
住宅取得等資金の贈与には税金がかからない
マイホームの購入や増改築のための資金として父母や祖父母から贈与を受ける場合、最大1,000万円まで贈与税がかかりません。省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までとなります。対象となるのは資金の贈与です。不動産の贈与は対象にならないので注意しましょう。
資金を渡す側(父母や祖父母)に年齢制限はありませんが、贈与を受ける側(子や孫)は贈与を受けた年の1月1日において18歳以上でなければなりません。
その他、適用できる住宅の種類や子や孫の所得制限などの条件があるため、事前に確認しましょう。
教育資金の一括贈与には税金がかからない
教育資金の一括贈与は、父母や祖父母が30歳未満の子や孫に教育資金を贈与する場合に、最高で1,500万円までは贈与税がかからない制度です。
教育費は入学金、授業料のほか、学用品の購入費、学習塾や習い事の費用、定期券代、留学渡航費なども対象となります。この特例を使うには、信託銀行等に教育資金口座を開設し、金融機関を経由して贈与する必要があります。
子や孫が30歳になった時点で贈与された財産を使い切れていなかった場合は、その残額に対して贈与税がかかります。ただし、30歳になった時点で在学中であれば40歳まで利用できます。
結婚資金や子育て資金の一括贈与には税金がかからない
18歳以上50歳未満の子や孫が、父母や祖父母から結婚・子育てのための資金として贈与を受ける場合、最大1,000万円(結婚資金は300万円)までは贈与税がかかりません。
ただし、子や孫が50歳になったときに残高があると贈与税がかかるので注意しましょう。適用を受けるためには、金融機関に専用の口座を開設して贈与する必要があります。
一括贈与の適用期間延長
「住宅取得等資金」「教育資金」「結婚・子育て資金」は適用期間を定めた時限的な特例ですが、これまで期間の延長が繰り返されてきました。
「教育資金贈与」は、3年延長により2026年3月31日まで、「結婚・子育て資金贈与」は、2年延長により2025年3月31日まで適用期間が延長される予定です。一方、「住宅取得等資金」については、2023年12月31日で制度終了となる見込みです。
不動産を活用する
金額の大きくなりがちな不動産を上手に活用して税金対策を行いましょう。
相続税対策③ 収益のある不動産を生前贈与する
賃貸マンションやアパートなど収益性のある不動産を所有している場合は、不動産を生前贈与することで相続財産を減らすことができます。
また、不動産から発生する家賃などの収入は贈与を受けた人の財産になります。相続税は現金での一括納付が原則なので、賃貸収入をいずれ発生する相続税の納税資金として活用することもできます。
相続税対策④ 所有している土地に賃貸アパートを建てる
更地を所有している場合、その土地に賃貸物件を建てることで土地の相続税評価額が下がります。賃貸用物件が建っている土地だと、土地の所有者は土地を自由に使えなくなるため、不動産評価が下がる仕組みです。
ただし、空室があると相続税評価額が上がったり、入居者がいなければコストがかさんで赤字になったりするリスクもあるので、十分な対策を考えてから始めましょう。
相続税対策⑤ タワーマンションの高層階を購入する
通常、タワーマンションでは低層階より高層階のほうが高値で取引されます。しかし、相続税の評価においては低層階と高層階の区別がありません。そのため、仮に同じ間取りなら低層階も高層階も同じ評価額となります。つまり、時価の高い高層階を購入すれば、時価の低い低層階と相続税額は同じなので節税になるというわけです。
ただし、こうしたいわゆるタワマン節税が問題視され、追徴課税される(追加で税金を取られる)ケースが出てきていますので、今後は注意が必要です。
相続税対策⑥「小規模宅地等の特例」で土地の評価額を最大80%減らす
亡くなった人が住んでいた自宅の土地や、事業に使っていた土地等を相続する場合に、一定の要件を満たせば土地の相続税評価額を最大80%減額することができる制度です。土地の相続税評価額が下がれば、その分相続税の負担も軽減されます。
居住用宅地であれば330㎡までの部分が80%減、事業用宅地であれば利用区分によって200~400㎡までの部分に対して50%または80%減で評価されます。
減額割合が大きいため相続税対策として効果的な制度ですが、取得する人や宅地の区分により細かい要件があるため、利用する際には要件をしっかりと確認しなければなりません。
生命保険を活用する
相続税対策の代表的な方法のひとつとして、生命保険の利用が挙げられます。
相続税対策⑦ 生命保険の非課税枠を使う
生命保険金は、契約の内容によってかかる税金が変わります。
被保険者(保険の対象となる人)と保険契約者(保険料を支払う人)が同じで、受取人(死亡保険金を受け取る人)が異なる場合は、受取人に相続税がかかります。
ただし、死亡保険金には一定額までは税金がかからない非課税枠があり、非課税枠を差し引いた額が相続税の対象となります。
生命保険金の非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数
被相続人が保険料を負担するため、相続財産の総額を減らす効果もあります。
なお、生命保険金の非課税枠は、生命保険金の受取人が相続人の場合のみ適用されます。相続放棄した人が生命保険金を受け取った場合には非課税枠は適用されない点にも注意しましょう。
相続税対策⑧ 生命保険料を生前贈与する
生命保険金の受取額が非課税枠を超える見込みであれば、生前贈与の活用も検討しましょう。
例えば、親を被保険者、子供を保険契約者かつ受取人とする生命保険に加入したとします。暦年贈与の基礎控除である年間110万の範囲内で子供にお金を贈与し、そのお金で子供が保険料を支払います。そうすれば贈与税がかからず、相続財産を減らすこともできます。
なお、上記例のように生命保険金の保険契約者と受取人が同一の場合、被保険者が亡くなった時点で受取人に支払われる死亡保険金には、相続税ではなく所得税がかかります。
その他の控除制度などを利用する
相続税には基礎控除以外にもさまざまな控除制度が設けられています。
相続税対策⑨ 養子縁組で法定相続人を増やす
養子縁組をすると法定相続人の数を増やすことができます。
法定相続人の数は、相続税の基礎控除額や死亡保険金の控除額に影響を与えます。また、死亡退職金についても【500万円 × 法定相続人の数】の非課税枠が設けられているため、法定相続人を増やすことは相続税対策として有用です。
ただし、法定相続人に含めることができる養子の人数には制限が設けられています。被相続人に実子がいる場合は養子1人まで、被相続人に実子がいない場合は養子2人までとなっています。
相続税対策⑩ 葬儀費用は相続財産から差し引ける
葬儀にかかった費用を相続人が負担した場合、それらの費用は相続税を計算する際に相続財産から差し引くことができます。相続財産が減ればその分相続税の負担を減らせます。
なお、香典返しは葬儀費用には含まれないので注意してください。
相続税対策⑪ 墓地や仏壇などを生前購入する
墓地、墓石、仏壇、仏具などは相続税がかからない非課税財産です。そのため、被相続人が生前に購入しておくと相続税対策になります。
注意点としては、非課税財産とするには生前に購入しておくことが必須だということです。相続後に購入したものは非課税財産になりません。代金の支払いが済んでいないものも対象外です。また、純金などでできているものや骨董品としての価値があるものは、非課税とならない可能性があります。
こんな場合は税理士などのサポートを受ける
以下のような場合、税理士など専門家のサポートを受けることを特にお勧めします。
家族信託を利用したい
家族信託とは、自分の財産の管理や運用を家族に託す(任せる)制度のことです。
家族信託の制度を利用しても、直接的な節税効果はありません。ただし、家族信託を利用することで、結果として相続税対策になり得るケースは存在します。
具体例で説明します。
認知症などで自分では財産管理が難しくなる場合に備えて、高齢の親が子供と家族信託契約を結んだとします。
将来的に親が認知症となり判断能力が著しく低下すると、親は財産の処分や運用ができなくなり、相続税対策が不可能になってしまうケースが考えられます。こうした場合でも、家族信託によって子供が親の代わりに財産を処分・運用できるので、子供が生前の相続税対策を行うことができます。
家族信託は2007年に施行された比較的新しい制度なので、まだ実例が少なく、法律の解釈も定まっていない部分もあります。家族信託を検討する際は、詳しい専門家のサポートを受けることをおすすめします。
相続税対策として会社設立を検討している
相続財産が多額になる場合や、ある程度の事業規模の不動産を保有している場合は、資産管理会社の設立も相続税対策の選択肢となります。
資産管理会社とは、多くの収益不動産を所有する地主など富裕層の方が、その資産を管理することを目的として設立する法人です。
ただし、会社設立は手軽にできる税金対策ではありません。会社設立による相続税対策を考えるなら、相続に詳しい税理士にご相談ください。
株の評価をどうすべきかが分からない
相続財産の中に株が含まれている場合、留意しなければならないのは評価の方法です。株は大きく分けて「上場株式」と「非上場株式」があり、それぞれ評価方法が異なります。
上場株式や非上場株式の相続はとても複雑なので、株式の評価や相続税対策に不安を感じたら税理士に相談しましょう。
相続税の対策まとめ
相続税は、生前贈与や不動産、その他の特例などを活用することで節税できます。ただし、効果的な対策はひとりひとり異なります。適切な相続対策を行うなら税理士に相談することをお勧めします。