相続でかかる税金は相続税!でも所得税がかかる場合もあるって本当?
「遺産を相続すると相続税がかかる」と認識していらっしゃる方は多いでしょう。しかし、場合によっては「相続によって所得税がかかることもある」ということをご存知でしょうか?
この記事では、相続で所得税がかかる可能性のある5つのケースについて詳しく解説します。
相続してかかる税金は相続税だけ?
相続により財産を受け継いだ場合、相続税の他にもかかる税金はあるのでしょうか?
相続した財産そのものに所得税はかからない
相続税は、一定額以上の財産を相続により受け継いだ場合に支払い義務が発生する税金です。一方、所得税は、働いて得た給料や事業で稼いだ年間の収入から必要経費を差し引いた「所得」に対してかかる税金です。
相続財産は所得ではありません。つまり、相続した場合にかかるのは相続税であって、遺産を相続しただけでは所得税はかからないということになります。ただし、場合によっては、相続開始後に所得税が発生するケースがあります。
例えば、賃貸アパートを相続して賃料収入が生じる場合は、賃貸アパート(相続財産)については相続時に相続税がかかり、相続後の賃料収入には所得税がかかります。
どんな場合に所得税がかかるのかについては、後ほど詳しく説明します。
相続でかかる可能性のある税金は3つ
相続によってかかる可能性のある税金は3つです。その違いをきちんと理解しておきましょう。
相続税
相続税は、亡くなった人(被相続人)から受け継いだ預貯金や不動産などの相続財産に対してかかる税金です。財産を受け継いだ人(相続人)は、10か月以内に申告・納税する義務があります。
ただし、相続税は財産を相続した場合に必ずかかるわけではありません。相続した財産の総額から借金や葬式費用などを差し引いた額が一定の金額(基礎控除額)を上回る場合のみ相続税がかかります。
基礎控除額は、3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数 )で計算します。例えば、相続人が被相続人の配偶者と子ども2人の場合の基礎控除額は4,800万円( = 3,000万円 +( 600万円 × 3人 ))となり、相続した財産の額が4,800万円を超えなければ相続税はかからず申告も不要です。
また、相続財産の金額が基礎控除額を超えたとしても、財産の評価額を引き下げる特例や一定の人に認められる控除制度を適用して、相続税を減額したり納税額をゼロにできる場合もあります。
相続税の税率は、遺産額に応じて段階的に10%~55%です。ただし、相続税の金額を求めるには、遺産額にそのまま税率をかければいいというわけではなく、複雑な計算が必要になります。
[参考] 相続で遺産がいくらなら税金はかからない?相続税の計算方法と早見表
所得税
所得税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間の個人の「所得」に対してかかる税金です。所得とは、収入(例えば、会社から受け取る給料、商売で得た売上、不動産の賃貸収入など)から必要経費を差し引いた金額のことをいいます。相続財産は所得には該当しないため、所得税の対象とはなりません。
所得税の税率は、所得が多くなるに従って段階的に高くなり、5%〜45%の7段階に分かれます。
登録免許税
土地や建物などの不動産を相続した場合、所有者の名義変更の手続き(相続登記)が必要です。相続登記にあたって、登録免許税という税金がかかります。相続登記の登録免許税の税率は、原則として、登記する不動産の固定資産税評価額の0.4%となっています。
相続で所得税がかかるケース
前述したとおり、相続した財産そのものに所得税はかかりませんが、相続後に所得税がかかるケースがあります。「所得税がかかる」というのは、つまり「所得税の確定申告と納税が必要になる」ということです。
「所得税の確定申告と納税が必要になる」のは、大別すると「被相続人」と「相続人」になります。
被相続人に所得税がかかるケース
被相続人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までに「所得」があった場合、その所得に対して所得税が発生します。そのため、相続人は被相続人に代わって所得税の確定申告と納税をしなければなりません。この申告を「準確定申告」といい、相続の開始があったことを知った日(通常は、亡くなった日)の翌日から4か月以内に行う必要があります。
相続人に所得税がかかるケース
相続時に相続人に所得税はかかりませんが、相続後に所得税が発生することがあります。
たとえば、相続した財産を売却して利益が出た場合や、被相続人の死亡保険金を受け取った場合などです。このような場合に相続人は所得税の確定申告が必要となり、所得があった年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告書の提出と納税をしなければなりません。
[参考] 相続した家賃収入を確定申告する方法と税金対策について
被相続人の所得税の確定申告が必要なケース(準確定申告)
被相続人に所得があった場合、相続人は被相続人に代わって所得税の確定申告と納税をする必要があります。
準確定申告とは
所得税は1月1日から12月31日までの1年間に得た所得に対してかかる税金です。対象者は翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告書を提出する義務があります。しかし、年の途中で亡くなった場合は自分で確定申告することができないため、相続人が代わりに準確定申告を行うことになります。
準確定申告が必要なケース
相続人が準確定申告をしなければならないのは、被相続人が亡くなった年に以下のケースなどに該当する場合です。
- 給与収入が2,000万円を超えていた
- 2か所以上から給与を受けていた
- 給与所得や退職所得以外の所得が合計で20万円を超えていた
- 公的年金などの収入が400万円を超えていた
- 家賃収入があった
- 不動産や株式を売却した
- 個人事業を行っていた
- 保険の満期金などを受け取っていた
- 貸付金の利子収入があった
準確定申告をしなくても良いケース
準確定申告は必ずしなければならないわけではありません。例えば、被相続人が年金受給者であった場合、公的年金による収入が400万円以下で、年金以外の所得も20万円以下あれば、準確定申告をする必要はありません。
ただし、場合によっては、申告義務がなくても、準確定申告をしたほうが良いケースがあります。例えば以下のような場合には、準確定申告することで所得税が還付される(戻ってくる)可能性があるからです。
- 被相続人の収入が給与や年金のみで所得税が天引きされていた場合
- 医療費控除の対象となる高額の医療費を支払った場合
- 寄附金控除の対象となる寄附をした場合
準確定申告の期限は4か月以内
準確定申告書の提出期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月です。納税の期限も同日です。期限内に準確定申告をしなかった場合には、無申告加算税や延滞税などが科されますので気を付けましょう。
なお、準確定申告書の提出先は、相続税の申告先と同じく、被相続人が死亡当時に住んでいた場所を管轄する税務署となります。相続人の住所地を管轄する税務署ではないので注意してください。
相続人の所得税の確定申告が必要なケース
相続人自身に所得税がかかり確定申告が必要となるのは、主に以下の4つの場合です。
相続した財産から定期収入が発生する場合
賃貸アパートやマンション、貸駐車場などを相続すると、相続人は定期的に賃貸料収入を得られることになります。このように、被相続人から引き継いだ財産によって生じる固定収入は相続人の所得となるため、相続人は所得税の確定申告をしなければなりません。
相続人が複数いる場合は、遺産分割協議(誰がどの財産を相続するかを決める話し合い)が終わるまでの間、各相続人が法定相続分により賃貸料収入を得たとみなされます。そのため、相続人全員がそれぞれ不動産所得について確定申告をする必要があります。
具体例
- 賃貸アパートを所有していた父親が6月1日に死亡
- 相続人は子ども2人(長男と次男)
- 9月1日に遺産分割協議によって長男がその賃貸アパートを相続することになった
この場合、1月1日から6月1日までの家賃収入は父親の不動産所得なので、相続人(長男または次男)が父親に代わって10月1日までに準確定申告をします。6月2日から9月1日までの家賃収入は相続人全員の所得となるため、長男と次男がそれぞれ翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告をすることになります。9月2日から12月31日までの家賃収入は長男の所得となるため、長男は6月2日から9月1日までの家賃収入と合わせて、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告をします。
なお、被相続人が不動産賃貸業について青色申告を行っており、相続人もその事業を引き継いで青色申告をしたい場合には、税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。自動的に青色申告が引き継がれるわけではないため注意しましょう。
相続した不動産や株式などを売却譲渡した場合
相続した不動産や株式は、状況によっては売却して現金化することもあるでしょう。被相続人がその財産を購入した時の価格よりも売却した価格のほうが高ければ利益が発生することになります。この売却益を「譲渡所得」といい、譲渡所得に対して税金(譲渡所得税)がかかります。
相続によって取得した不動産や株式を一定期間のうちに売却した場合、すでに支払った相続税の一定金額を取得費に加算できる特例制度などを適用して、譲渡所得税の負担を軽減することも可能です。
譲渡所得税は、売却日の翌年2月16日から3月15日までに確定申告をして納税します。なお、不動産や株式の売却益である譲渡所得は、給与や不動産の賃貸収入などとは合算せずに、別個の所得として所得税を計算します(これを分離課税といいます)。
[参考] 相続した土地や不動産売却にかかる税金と確定申告について
死亡保険金を受け取った場合
死亡保険金は所得税の対象となるものがある
死亡保険金は契約内容によっては所得税の対象となるケースがあります。所得税の対象となるのは、生命保険の契約者(保険料を支払っている人)と死亡保険金の受取人が同一の場合です。
例えば、被保険者(保険の対象となっている人)が母親で、その子どもが保険料を支払っており、死亡保険金の受取人が子ども自身という場合はこのケースに該当します。母親が亡くなって子どもが死亡保険金を受け取ったとき、子どもは所得税の確定申告をしなければなりません。
受け取り方法によって所得の種類が変わる
死亡保険金は、一時金として受け取るか、もしくは年金で受け取るかによって所得の種類が異なり、税金の対象となる金額が変わることになります。死亡保険金を一時金として受け取った場合は「一時所得」、年金として受け取った場合は「雑所得」として扱われます。
一時金で受け取った場合(一時所得)
一時所得となるのは、受け取った保険金の総額から、既に払い込んだ保険料または掛金の額を差し引き、さらに一時所得の特別控除額50万円を引いた金額です。所得税の対象になるのは、その金額をさらに1/2にした金額となります。
具体例
- 死亡保険金500万円
- 払込済みの保険料200万円
所得税の対象となる金額 125万円( = (500万円 – 200万円 – 50万円)× 1/2)
年金として受け取った場合(雑所得)
雑所得となるのは、その年に受け取った年金の額から、その金額に対応する払込保険料または掛金の額を差し引いた金額です。
未支給年金を受け取った場合
老齢年金は、国民年金と厚生年金どちらも、年に6回、原則として偶数月の15日に前月・前々月の2か月分が支払われます。例えば、6月15日に支払われる年金は、4月分と5月分の2か月分です。6月1日に亡くなったとすると、4月と5月は生きていてその分の年金を受給する権利があるにも関わらず、年金が支給されないことになります。これを「未支給年金」といいます。
一定の要件を満たした被相続人の遺族は、未支給年金を受け取ることができます。受け取った未支給年金に相続税はかかりませんが、遺族の一時所得として所得税の対象となります。
一時所得には50万円の特別控除があり、未支給年金を含めたその年の一時所得が50万円以下の場合、一時所得に対する税金はかからないため確定申告は不要です。
なお、国民年金や厚生年金を受給していた人が死亡したときに、遺族に対して支給される遺族年金は、原則として所得税も相続税もかかりません。
相続で所得税がかかる場合のまとめ
相続時に所得税がかかることは基本的にはありません。しかし、被相続人に所得があった場合には、相続人は被相続人に代わって準確定申告をしなければなりません。また、相続した不動産を売却して利益が出た場合などには相続人自身の所得税の申告が必要になります。
所得税の申告が必要になるのか判断できないときや、申告に不安があるときは、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。