個人事業主の事業承継(引継ぎ)税金・節税対策

個人事業主の事業承継(引継ぎ)方法・手続き・留意点について

事業承継で発生する税金は4種類ある

個人事業主の事業承継では、事業用財産の引継ぎに相続税・贈与税・所得税がかかります。また、事業を引き継いだ場合の消費税の納税について解説します。

相続税

先代事業者名義の事業用財産を相続により引き継ぐ場合、後継者に相続税がかかります。相続税には「3,000万円 +( 600万円×法定相続人の数 )」の基礎控除があります。遺産総額が基礎控除の金額以下の場合、相続税はかかりません。

相続税がかかる場合、申告と納税は、死亡を知った日の翌日から10カ月以内に行います。

また、先代事業者の生前の事業所得につき、所得税の準確定申告を相続人が共同で行う必要があります。準確定申告の申告期限は、死亡を知った日の翌日から4ヵ月以内です。

贈与税

先代事業者の資産の生前贈与には、後継者に対して贈与税がかかります。贈与税には1年間で110万円の基礎控除があるため、110万円以内では贈与税がかかりません。110万円を超える金額に「一般贈与財産」または「特例贈与財産」の税率を掛けて税額を算出します。特例贈与とは、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の子や孫などへの贈与です。一般贈与は特例贈与以外の贈与のことを指します。特例贈与は一般贈与より税率が低く設定されています。贈与税の申告期限は、贈与が発生した翌年の3月15日です。

所得税

個人事業主が事業用財産を売却すると、売却益に対して所得税がかかります。所得税の所得区分は給与所得、事業所得など10種類あり、売却益の所得区分は譲渡所得です。譲渡した財産が土地・建物・株式なら分離課税、それ以外では総合課税で課税されます。分離課税の税率は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)です。総合課税では他の所得と合算した金額に累進課税の税率がかかるため、所得が高い人ほど税金が高くなります。

所得税の申告期限は、譲渡の翌年の3月15日です。

消費税

建物や車両など事業用財産の譲渡には消費税がかかります。一方、土地や債権の譲渡は消費税が非課税です。

消費税は、課税対象となる商品やサービスの売上高が1,000万円を超えると翌々年から納税義務が発生します。

先代事業者の生前に事業を継いだ場合は、原則として開業後2年以内は消費税の納税義務はありません。しかし、課税対象となる売上高が1,000万円を超える事業を相続で承継した場合、後継者は1年目から消費税の納税が必要です。

個人事業主の消費税の申告と納税は、課税期間の翌年の3月31日が期限です。口座振替の場合、振替日は4月中旬から下旬となります。

個人版事業承継税制を活用すれば節税できる

事業用財産を後継者に無償で承継させる場合、贈与税や相続税の負担が問題になります。後継者が税金を負担できない場合、廃業につながりかねません。後継者の税負担軽減のために、個人版事業承継税制を活用できる場合があります。

個人版事業承継税制とは?

事業承継税制は法人(株式会社)の自社株承継のために創設されました。しかし、飲食業や小売業、会計事務所など個人事業の多い業種では、事業承継時の税負担のために廃業せざるを得ないケースもありました。この状況を改善するために、事業承継税制を個人事業主にも拡大することになったのです。

個人版事業承継税制は、認定を受けた後継者が承継した特定事業用資産への贈与税・相続税の納付が猶予され、一定の条件を満たすと免除される制度です。

個人版事業承継税制の対象となる「特定事業用資産」とは

個人版事業承継税制では、青色申告書の貸借対照表に計上されている以下の財産が特定事業用資産に該当します。

  • 土地・建物(土地は400㎡、建物は800㎡まで)
  • 工作機械などの償却資産
  • 車両・運搬具
  • 生物(乳牛、果樹等)
  • 無形固定資産(特許権など)

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律とは

個人版事業承継税制は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の施策の1つです。※参考までに、この法律は、資金力の乏しい中小企業や個人事業主の事業承継を取り組みやすくする制度です。

贈与税の免除を受けるための主な要件

個人版事業承継税制によって贈与税の納税猶予及び免除を受けるには、後継者・先代事業者ともに一定の要件を満たす必要があります。

後継者の主な要件

贈与を受ける後継者の主な要件は以下の通りです。

  • 贈与の時点で20歳以上であること
  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の認定を受けていること
  • 3年以上事業に従事していたこと
  • 贈与税の申告期限までに開業届を提出し、青色申告の承認を受けていること

先代事業者の主な要件

贈与をする先代事業者の主な要件は以下の通りです。

  • 贈与の日の属する年、その前年及びその前々年の確定申告が青色申告であること
  • 廃業届出書を提出している、または贈与税の申告期限までに提出する見込みであること
  • 特定事業用資産の全てを後継者に贈与すること

相続税の免除を受けるための主な要件

個人版事業承継税制によって相続税の納税猶予及び免除を受けるには、後継者・先代事業者ともに一定の要件を満たす必要があります。

後継者の主な要件

相続人となる後継者の主な要件は以下の通りです。

  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の認定を受けていること
  • 相続開始の直前において事業に従事していたこと(先代事業者等が60歳未満で死亡した場合を除く)
  • 相続税の申告期限において開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること(見込みも可)

先代事業者の主な要件

  • 承継する事業の総収入金額がゼロでないこと
  • 相続開始の日の属する年、その前年及びその前々年の確定申告が青色申告であること

個人版事業承継税制を利用する際の注意点

個人版事業承継税制には次のような注意点があります。

時限措置であること

個人版事業承継税制は、2028年12月31日までに行われる相続・贈与が対象です。後継者は2024年3月31日までに「個人事業承継計画」を都道府県に提出しなくてはなりません。

小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)との併用不可

一定の要件を満たすと400㎡まで事業用土地の80%の評価減が適用される小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)と個人版事業承継税制との併用はできません。

「継続届出書」を3年ごとに提出

この制度を利用する場合、3年ごとに「継続届出書」を税務署に提出しなくてはなりません。

担保提供が必要

猶予される相続税の金額および利子税の金額に見合う担保を、税務署に提供する必要があります。

事業を廃止した場合には全額納付

事業を廃止した場合、猶予されていた贈与税および相続税を利子税とともに全額納付しなくてはなりません。あくまで事業を継続するための納税猶予制度であるため、廃業の可能性がある場合には慎重に検討すべきです。

個人版事業承継税制以外の節税対策

個人版事業承継税制にはメリットもありますが、すべてのケースで有効ではありません。ここでは、個人事業主の事業承継に有効な他の節税対策を紹介します。

生前贈与を活用する

事業用財産の無償譲渡を一括で行う場合、一般的に相続税より贈与税が高くなります。しかし、相続税の税率より低い税率の暦年贈与を長期にわたって行うことで税負担が抑えられる場合があります。その場合、後継者以外の相続人の遺留分を侵害しない、などの配慮が必要です。

相続時精算課税制度とは

先代事業者が60歳以上で後継者が20歳以上の子や孫であれば、相続時精算課税制度も選択できます。贈与者1人につき2,500万円までが非課税で、超えた分の税率は一律20%です。相続発生時に相続財産と贈与財産を合計し税額を求め、支払い済みの贈与税を差し引きます。暦年贈与が有利な場合もあり、相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与に戻せないため、活用するかどうかは慎重に考える必要があります。

生命保険を活用する

契約者・被保険者が先代事業者、受取人が相続人の生命保険の死亡保険金は相続税の課税対象です。死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」までは非課税で受け取れます。

小規模宅地等の特例を活用する

小規模宅地等の特例は居住用や事業用の土地を相続した場合に、一定の要件を満たしたときにその土地の評価額を最大で80%減額できる制度です。事業用の土地を後継者である相続人が相続すると、400平方メートルを上限として評価額が80%減額されます。

この特例の適用要件は次の通りです。

  • 後継者が相続税の申告期限までに事業を継続していること
  • 土地を相続税の申告期限までに保有していること

土地や建物を「使用貸借」にする

事業用の不動産を引き継ぐ場合、後継者が買い取れないこともあります。その場合は、先代事業主から後継者へ有償または無償で貸し出す方法が考えられます。使用貸借とは無償の貸し出しのことです。子が親の財産を使用賃借する際は、贈与税はかかりません。その場合、相続をもって承継され、後継者は相続税を負担することになります。

まとめ

個人事業主の事業承継には多くの手続きがあり、時間も手間もかかります。また、税務面での対策は様々な要因を考慮して判断する必要があります。間違いのない選択のためには、税理士などの専門家に相談することも方法の1つです。

税理士法人監修

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