飲食店の税金はいくら?計算方法は?個人と法人の税率は違う?
飲食店の税金はお店の利益、給付金、助成金、補助金、協力金などに対してかかります。儲かった分だけ税金が高くなるため、決算前にどのくらい税金がかかるのか把握しておきたいところです。当記事では、複雑な税金の計算方法や、飲食店経営者が知っておきたい税金の知識をわかりやすく解説します。
飲食店にかかる税金の種類
飲食店の利益に対してどのような種類の税金がかかるのか解説します。
個人事業主の場合
飲食店経営を個人事業主として行う場合、以下の税金がかかります。
- 所得税(必ずかかる)
- 住民税(必ずかかる)
- 個人事業税(かからない場合もある)
- 消費税(かからない場合もある)
基本的には上記4種類の税金がかかります。
①所得税とは
所得税は累進課税といって、利益が大きければ大きいほど税率が高くなる仕組みです。具体的な計算方法は次項で解説しますが、利益の金額に対して最小5%~最大45%かかる税金です。
②住民税とは
住民税は市区町村ごとに税率が決められており、利益の金額に対して約10%程度の所得割+5,000円程度の均等割がかかります。
③個人事業税とは
飲食店を営む個人事業税は、年間の事業所得(利益)から控除を適用した余りの金額に対して5%の税金がかかります。※厳密には事業専従者の給与や青色申告特別控除および各種控除などの細かい調整が必要です。
法人の場合
飲食店経営を法人として行う場合、以下の税金がかかります。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 地方法人税
- 消費税(かからない場合もある)
基本的には上記6種類の税金がかかります。
①法人税とは
法人税は会社の規模、所得(益金-損金)に対して以下の税率がかかります。個人事業主の所得税は累進課税により変動しますが、法人税は固定されている点が特徴です。
会社規模 | 利益の区分 | 税率 |
資本金が1億円以下の法人 | 年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円超の部分 | 23.20% |
②法人住民税とは
法人住民税は赤字でも必ずかかる均等割と(赤字の場合かからない)法人税をもとに算出する法人税割の2種類で求めます。均等割は資本金が1千万円以下かつ従業員が50人以下の場合、7万円かかります。法人税割は法人税に対して(東京都の場合)7%を乗じて求めます。法人税割を求める税率は都道府県や市区町村ごとに異なります。
③法人事業税とは
法人事業税は法人の所得(益金-損金)に対して以下の税率がかかります。
区分 | 税率 |
年400万円以下の金額に対して | 3.5% |
年400万円を超え年800万円以下の金額に対して | 5.3% |
年800万円を超える金額に対して | 7.0% |
④特別法人事業税とは
特別法人事業税は上記で算出した法人事業税に対して以下の税率がかかります。
法人の種類 | 税率 |
外形標準課税法人・特別法人以外の法人 | 37% |
外形標準課税法人 | 260% |
特別法人 | 34.5% |
⑤地方法人税とは
地方法人税は上記で算出した法人税額に対して以下の税率がかかります。
10.3%
飲食店にかかる税金の計算例
個人事業主および法人にかかる税金を踏まえて、居酒屋TAXというお店を例に税金の計算を行ってみます。※法人の場合、資本金300万円、従業員5名とする。
店名 | 消費税 | 売上 | 経費 | 利益(所得) | 課税所得(基礎控除+青色申告特別控除のみ考慮) |
居酒屋TAX | 原則課税で納税義務あり | 2,000万円 | 1,600万円 | 400万円 | 287万円 |
個人事業主の場合
プラス | マイナス | ||
利益(所得) | 4,000,000円 | 4,000,000円 | |
所得税 | 2,870,000円×0.1-97,500円=189,500円 | 189,500円 | |
住民税 | 2,870,000円×10%+5,000円=292,000円 | 292,000円 | |
個人事業税 | (3,520,000円-2,900,000円)×5%=31,000円 | 31,000円 | |
消費税 | 2,000,000円-1,600,000円=400,000円 | 400,000円 | |
税引き後の預金残高 | 3,087,500円 |
アルバイトの社会保険および経営者の国保(約35万円)と年金(約20万円)は考慮しておりませんが、居酒屋TAXで得た預金残高は3,087,500円になる計算です。※国保と年金を差し引くと、3,087,500円-550,000円=2,537,500円です。
法人の場合
利益(益金-損金) | 4,000,000円 | 4,000,000円 | |
法人税 | 4,000,000円×0.15=600,000円 | 600,000円 | |
法人住民税 | 600,000円×7%+70,000円=112,000円 | 112,000円 | |
法人事業税 | 4,000,000円×3.5%=140,000円 | 140,000円 | |
特別法人事業税 | 140,000円×37%=51,800円 | 51,800円 | |
地方法人税 | 600,000円 ×10.3%=61,800円 | 61,800円 | |
消費税 | 2,000,000円-1,600,000円=400,000円 | 400,000円 | |
税引き後の預金残高 | 2,634,400円 |
アルバイトの社会保険および経営者の役員報酬と社会保険は考慮しておりませんが、居酒屋TAXで得た法人の預金残高は2,634,400円になる計算です。
飲食店の税金は個人・法人どちらが有利?
飲食店経営を個人で行うか、法人で行うか、どちらが有利かいくつかの点で比較します。
個人の方が有利なケース
- 年間の所得が330万円未満
- 事業を拡大する予定がない
- 固定費を抑えられる
- 会計の手間を減らせる
年間の所得が330万円未満
個人の所得税と法人の法人税の税率を単純比較すると、所得が330万円未満の場合、個人の税率が10%で法人の税率が15%となり、個人事業主のほうが税率が低くなります。
事業を拡大する予定がない
事業を拡大するつもりがないのに法人でスタートしてしまうと、法人の場合、所得が低くても最低15%の税率がかかるうえ、法人住民税の均等割りが7万円かかります。一方で個人事業主の所得税率は最低5%かつ住民税の均等割りは5,000円のため負担が減ります。
所得 | 個人の所得税 | 法人の法人税 |
195万円未満の場合 | 5% | |
195万円未満の場合 | 15% |
固定費を抑えられる
個人事業主で利益が出ない場合、支払う税金は消費税のみとなりますが、法人で利益が出ない場合、法人住民税の均等割りが7万円発生します。さらに法人の確定申告は個人の確定申告に比べて複雑なため、税理士に頼る必要性が増すため、税理士に支払う報酬などが余計に発生します。
会計の手間を減らせる
個人事業主の会計と税務申告は法人に比べて簡単です。ほとんどの場合、クラウド会計ソフトを使って仕訳と申告作業を完結できます。一方で法人の場合、取引先や金融機関などから財務諸表(P/L、B/S、C/F)の提出を求められるケースが多くなり、厳格な会計基準(財務諸表を作成する際のルール)に従って会計と税務申告を行う手間がかかります。
法人の方が有利なケース
- 年間の所得が330万円以上
- 事業を拡大して店舗展開したい
- 退職金を管理しやすい
- 経費の幅が広がる
年間の所得が330万円以上
個人の所得税と法人の法人税の税率を単純比較すると、所得が330万円以上の場合、個人の税率が20%で法人の税率が15%となり、法人のほうが税率が低くなります。
事業を拡大して店舗展開したい
個人事業主の所得税は利益に対して5%~45%と変動しますが、法人税は利益が増加しても、15%もくしは23.20%と税率が一定のため安心です。
店舗展開して利益を増やす場合、法人成りを行ったほうが有利になるケースがほとんどです。
個人の所得 | 税率 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% |
40,000,000円 以上 | 45% |
法人の所得 | 税率 |
年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円超の部分 | 23.20% |
退職金を管理しやすい
個人事業主の場合、事業用の口座から自身に退職金を支払うことはできません。一方で法人の場合、将来自身に会社の口座から自身に退職金を支払うことが可能です。
経費の幅が広がる
個人事業主の場合、事業に関係ない自宅の家賃を経費にすることは難しいですが、法人の場合、社長の自宅を法人契約して社宅にすることが可能です。社宅の家賃は法人の経費で支払えますので自身の家賃負担を抑えつつ、会社の所得を減らす効果が得られます。※社長も少し家賃を負担する必要があります。
飲食店の税金を軽減する節税対策とは
飲食店経営にかかる税金を軽減する節税対策について解説します。
事業に投資する
個人もしくは法人の所得を確定する前に多店舗展開や広告宣伝などを行い、所得を減らして来期に売上を立てるイメージです。ある程度運転資金がある場合に有効ですが、たとえば当期に500万円の所得が確定する場合、(所得控除等は考慮せず)500万円に対して個人の所得税が100万円、法人の法人税が75万円ほどかかります。ですがもし、300万円を店舗展開や広告宣伝費に費やした場合、所得が200万円に収まり、200万円に対して個人の所得税が20万円、法人の法人税が30万円まで下がります。300万円は支出になりますが、支払ってもリターンがない税金を納めるくらいなら、積極的に事業に投資して売上規模を拡大するほうが結果的にリターンが大きくなる場合があります。
倒産防止共済に加入する
倒産防止共済とは、取引先が倒産したことによる連鎖倒産を防ぐための保険サービスです。この保険は条件を加入要件を満たしていれば個人、法人ともに加入でき、支払った掛金(保険料)が全額経費になります。所得が多くなり、税額が多くなる場合、倒産防止共済に加入して年間最大240万円を一括経費にすることが可能です。倒産防止共済の掛金は40か月後に100%の返戻率になるため、3年4か月後に解約して支払った掛金を手元に戻すことが可能になります。
法人成りして自宅を社宅にする
法人の場合、役員の自宅を法人契約できるようになり、会社で法人契約した社宅を役員(あなた)に貸すことにより、法人が毎月支払う社宅の家賃を法人の経費にすることが可能です。※個人事業主が自宅の家賃を経費にする場合、事業で使用している割合を証明できなければ経費算入できません。
資産価値の高い中古の社用車を買う
資産価値の高い中古の社用車とは、たとえば中古のベンツなどが該当します。あくまで通勤等で使用する社用車であることが前提となりますが、税制上、4年落ちの車を購入した場合、一括で経費にすることが可能です。さらに値崩れしづらい車を購入することで資金繰りが厳しくなった際に現金に換えて事業資金に充てることも可能となります。
飲食店の税金まとめ
飲食店経営にかかる税金は個人事業主か法人かによって異なります。年間の所得が330万円以上になる場合、所得税に比べて法人税のほうが低くなります。運転資金に余裕がある場合、税金を多く納めるよりも店舗展開などの事業投資を積極的に行い売上規模を伸ばしていく考え方もございます。確定申告ギリギリになって対策が遅れる前に、税理士に相談して税金の状況を常に把握しておくことが大切です。