株式投資の利益にかかる税金は?確定申告が必要・不要な場合を解説
資産運用の一環として株式投資をしているけれど、どのように税金がかかるのか、確定申告はどうするのか、曖昧なままの方も多いのではないでしょうか。この記事では株式投資にかかる税金の基本と、確定申告が必要なケース・不要なケースなどを解説します。株式投資をしている方は参考にしてください。
株式投資の利益は2種類ある
株式投資から得られる利益には配当益と譲渡益があり、税金がかかるタイミングや支払う方法が異なります。
株の配当金は「配当益」
株主として受け取った配当金は、「配当益」として税金がかかります。
配当益には
- 申告不要制度
- 総合課税制度
- 申告分離課税制度
の3つの課税方法があります。
株の配当金は受取時に源泉徴収されるため、確定申告は原則不要です(申告不要制度)。ただし、自分で税金を計算して確定申告を行う「総合課税」または「申告分離課税」を選択することも可能です。
- 申告不要制度:源泉徴収で課税が完了する(通常の場合)
- 総合課税制度:配当控除を適用したい場合に選択する
- 申告分離課税制度:売却損などと損益通算したい場合に選択する
例えば、株の売却で大きな損失があった際に、総合課税または申告分離課税を選択することで、配当金にかかる税金を軽減できます。
上場株式の配当金に対する税率は、申告不要制度および申告分離課税制度の場合、20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)です。
株の売却による利益は「譲渡益」
株を売却して得た利益を「譲渡益」といい、譲渡益は課税対象となります。譲渡益に対する税率は、配当金と同じ20.315%です。取引口座の種類によりますが、譲渡益に対する税金は、1月1日から12月31日までの利益と損失を合計して翌年に納税します。
株式等の譲渡益は、原則として確定申告が必要
株の売却で利益が出た場合、原則として確定申告による納税が必要です。しかし、取引する証券口座の種類により、確定申告が不要になるケースもあります。
個人が開設できる証券口座は、以下のとおりです。
- 一般口座
- 特定口座(源泉徴収あり)
- 特定口座(源泉徴収なし)
- 非課税口座(NISA・つみたてNISA・ジュニアNISA)
それぞれ以下に解説します。
一般口座の場合
一般口座を使っている場合、自分で年間の損益を計算して、確定申告および納税を行わなければなりません。収支計算や納税の手間がかかり、個人が一般口座を開設するメリットはほとんどありません。
特定口座(源泉徴収あり)の場合
特定口座(源泉徴収あり)の場合、証券会社が年間の損益を計算して、納税者の代わりに納税を行います。そのため、自分で確定申告をする手間がありません。
特定口座(源泉徴収あり)は確定申告が不要になるため便利ですが、複数の証券会社に口座を開設している場合は注意が必要です。異なる口座間での損失と利益を相殺する損益通算の処理が必要な場合は、確定申告をしなければなりません。
特定口座(源泉徴収なし)の場合
特定口座(源泉徴収なし)の場合、確定申告しなければなりませんが、自分で損益を計算する必要はありません。証券会社が発行する年間損益報告書をもとに、確定申告書を作成します。証券会社が損益を計算してくれるため手間が省け、小規模で株取引を行う方におすすめです。
会社員または年金受給者で、株の利益が年間20万円以下の方も、源泉徴収なしの口座を選択すると良いでしょう。詳細は後述します。
なお、特定口座は源泉徴収あり・なしのどちらか一方しか選択できません。タイプの変更は口座開設後でも可能です。変更を希望する際は、証券会社に手続き方法を確認しましょう。
非課税口座の場合
非課税口座(いわゆるNISA口座)で株取引をしている場合は配当益・譲渡益ともに非課税で、確定申告は必要ありません。NISAには1年間に120万円の非課税枠があり、非課税期間は最長5年間(つみたてNISAは年間の非課税枠40万円、非課税期間は最長20年)です。なお、現行のNISAについては、2024年1月1日以後は新たな制度に変わります。
株の売却益が年間20万円以下の場合、確定申告は不要になる?
会社員や年金受給者の方は給与や年金以外の1年間の所得が20万円以下の場合、確定申告が不要になります。
副業をしている人は要注意
「副業の所得が20万円以下なら確定申告しなくていいらしい」と聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ここでいう20万円とは、本業以外の株取引やアルバイトなどで得た所得の合計金額です。株取引による利益はわずかでも、その他の副業所得と合わせて20万円を超える方は確定申告が必要になります。
株式投資以外に次のような所得がある方は注意しましょう。
- 副業のアルバイト
- FXや仮想通貨の取引をしている
- 保険の解約などで一時所得がある
参考:所得の計算方法
所得とは収入金額そのものでなく、収入から経費を差し引いた残りをいいます。
株取引の所得は次のように計算します。
- 配当所得(配当金の所得):配当金の金額-株式取得の借入金の利子
- 譲渡所得(株の売却益の所得):売却金額 - (取得費+売却手数料)
株の利益が20万円以下の会社員は「源泉徴収なし」を選択する
会社員または年金受給者で、給与や年金以外の1年間の所得が20万円以下の場合、確定申告をする必要はありません。つまり、給与や年金以外の1年間の所得が20万円以下であればその分に関して納税義務が発生しません。源泉徴収ありの口座の場合、そうした事情は考慮されず、株の譲渡益に対して税金が差し引かれてしまいます。そのため、株取引の利益が20万円を超える見込みのない方は、最初から「源泉徴収なし」の口座を選択したほうが良いでしょう。
株の利益が年間20万円以下でも、確定申告をした方が得になるケースとは
会社員(給与所得者)や年金受給者の方で株の利益が年間20万円以下の場合、または特定口座(源泉徴収あり)の場合、確定申告の義務はありません。しかし、あえて確定申告をすることで節税につながるケースがあります。
異なる口座間で損益通算する場合
損益通算は、「利益」と「損失」を相殺することで所得額が減り、結果として税金を減らすことができる制度です。
株式投資の「損失」とは、株を売ったときの売却損です。この売却損と相殺できる利益は、次の2種類があります。
- 株の配当金
- 株の売却益
株の売却損と配当金との損益通算
株の配当金は特定口座(源泉徴収なし)や一般口座の場合でも、受取時に税金が源泉徴収されます。しかし、株の売却損と配当利益を損益通算することにより、配当金から引かれていた税金の一部または全部を還付請求できます。ただし、損益通算を適用するには確定申告が必要です。
具体例:
年間の株の譲渡損 ▲20万円
年間の配当金 10万円(源泉徴収税額:2万315円)
損益通算後の所得 ▲10万円
株の売却損と配当金の損益通算により、最終的な損益は▲10万円となり、源泉徴収された税金は全額還付されます。
なお、特定口座(源泉徴収あり)で配当金を「株式数比例配分方式」で受け取る方は、売却損と配当金が自動的に損益通算されるため、確定申告が不要です。
株の売却損と売却益との損益通算
株の売却損は、株の売却益とも損益通算が可能です。複数の証券会社で株取引をしていて、年間の損益がマイナス(売却損)の口座とプラス(売却益)の口座がある場合を想定します。
具体例:
年間の株の譲渡益(損)
【口座A】特定口座(源泉徴収あり)= 30万円(源泉徴収税額:6万945円)
【口座B】一般口座または特定口座(源泉徴収なし)= ▲10万円
損益通算後の所得 = 20万円(確定税額:4万630円)
確定申告により損益通算が適用されると、口座Aで源泉徴収された税金の一部(6万945円-4万630円=2万315円)が還付されます。
繰越控除する場合
繰越控除とは、損益通算をしても控除しきれない損失が残ったときに、翌年以降にその損失を最長3年間繰り越して翌年以降の株式の売却益や配当金と相殺できる制度です。当年の利益と過去の損失を相殺することで節税に繋がります。なお、繰越控除の適用を受けるためには、確定申告をする必要があります。株の譲渡損が生じた年分だけでなく、その後に取引がない年があっても、その損失を繰り越す期間は連続して確定申告をする必要があります。
株取引でどれくらい利益が出るかによって、選ぶべき口座が変わる
一般的に株取引をしている方の多くは、特定口座(源泉徴収あり)を選択します。しかし、これまで述べたことを踏まえると、特定口座(源泉徴収あり)は必ずしも万人向けでないことがわかります。自分にとって有利な口座は源泉徴収ありなのか、源泉徴収なしなのか、選ぶ基準を解説します。
源泉徴収ありの特定口座がおすすめの人
株取引により毎年継続して20万円超の利益が出ている方は、税金が自動的に差し引かれて確定申告不要の特定口座(源泉徴収あり)が便利です。
ただし、異なる(複数の)口座間で取引をしていて、損益通算をしたい場合には、「源泉徴収あり」の口座であっても確定申告が必要になる点には留意しましょう。
源泉徴収なしの特定口座がおすすめの人
会社員や年金受給者で、年間の利益が20万円以下
会社員や年金受給者の方で、年間の利益が20万円を超える見込みのない方は「源泉徴収なし」の特定口座をおすすめします。特定口座(源泉徴収あり)を選択してしまうと、株式投資を含む副業などの所得が20万円以下で確定申告義務がないにもかかわらず、税金を徴収されてしまうからです。
仮に20万円超の利益が出て確定申告が必要になっても、特定口座であれば証券会社から年間取引報告書をもらえるので所得の計算を簡単に行えます。
株取引の金額が多い
株取引の金額が多い方も、「源泉徴収なし」の口座がおすすめです。「源泉徴収あり」の口座の場合、利益が出るたびに税金が差し引かれるため、次の取引に回せる投資資金が少なくなってしまいます。「源泉徴収なし」の口座であれば、利益分もそのまま次の取引資金とすることができます。最終的には1年間トータルの利益で税金が計算されますが、売却益をそのまま運用に回したい方は「源泉徴収なし」の口座を利用すると良いでしょう。
まとめ
特定口座(源泉徴収あり)であれば、確定申告をする必要がないため手間がかかりません。しかし、会社員や年金受給者の方、株取引の金額が大きい方などは源泉徴収なしの口座のほうが有利になるケースもあります。できるだけ手間がかからず有利な口座を選びましょう。