医療費控除を受けるサラリーマンは確定申告必須?やり方は?

1年間に一定額以上(基本は10万円)の医療費の支払いがあった場合、医療費控除が受けられます。医療費控除を受けるには、会社員やサラリーマンの方でも確定申告が必要ですが、特に難しい手続きではありません。この記事では、医療費控除のしくみや控除を受けるための確定申告のやり方を解説します。

医療費控除のしくみ

医療費控除は自分や家族が支払った医療費の金額に応じて求めた控除額を、その年の所得から差し引く仕組みです。会社員やサラリーマンの方であれば、医療費控除を確定申告すると、納めすぎた所得税が還付されます。

医療費控除とは

医療費控除は、高額な医療費を支払った年に税負担が軽減される制度です。自分や同一生計の家族のために支払った医療費が一定額を超えた場合、その超えた金額をその年の所得から差し引けます。

医療費控除の適用は確定申告で行う

医療費控除を受けるには、確定申告が必要です。医療費控除の申請は年末調整の対象外のため、確定申告をすることで、給与から天引きされた所得税の還付を受けられます。

医療費控除の確定申告は、1月1日から12月31日までに支払った分を、翌年の2月16日から3月15日までの間に行います。尚、医療費を支払った翌年の1月1日から5年間であれば、過年度分の控除も可能です。

医療費控除と選択適用される「セルフメディケーション税制」とは

医療費控除の特例に「セルフメディケーション税制」があります。セルフメディケーション税制では、対象の医薬品を購入した際に所得控除を受けられます。対象の医薬品を1年間に1万2,000円以上購入すると、超えた金額分の所得控除が可能です(上限は年間8万8,000円)。

医療費控除の対象になる医療費とは

医療費控除の対象となる医療費は、原則として治療目的のものに限られます。病気予防や健康増進、美容などのためにかかった費用は対象外です。医療費控除の対象として認められる主なものは、診療代、治療目的の医薬品代、分娩費、通院のための公共交通機関の交通費、公的介護保険サービスの自己負担分などです。

医療費控除に係る医療費の例

対象 (YES)対象外 (NO)
医師または歯科医師による診療・治療代人間ドックなどの健康診断費(病気が見つかって治療した場合を除く)
治療目的の医薬品代予防接種の費用
病院・介護施設・助産院などへの入院代美容整形の手術代
治療のために指圧師・鍼灸師・柔道整復師などに支払った施術費サプリメントなど治療目的以外の医薬品代
通院のための電車・バスなど公共交通機関の交通費マイカーで通院時のガソリン代・駐車料金
治療に必要な松葉杖など、医療器具の代金自分の希望で利用した差額ベッド代

医療費控除の計算方法

医療費控除において所得から控除される金額の計算式は、以下のとおりです。なお、控除額の上限は200万円です。

医療費控除額 = 年間の医療費の総額 - 10万円(所得が200万円未満の人は所得金額の5%) - 保険金などで補てんされる金額

保険金などで補てんされる金額には、健康保険の高額療養費や出産育児一時金などが含まれます。また、対象となる医療費はその年に診療を受けた分でなく、実際に支払った金額です。

医療費控除の計算の具体例

医療費控除で節税できる金額はいくらでしょうか。医療費控除が適用されると所得税が還付され、翌年(確定申告をした年)の住民税が安くなります。ここでは、10万円以上の医療費がかかった世帯での、医療費控除で削減できる税額を試算してみます。

前提条件(Aさんの収入と医療費などの内容)

  • 課税所得の金額 400万円(所得税と住民税いずれも同額とする)
  • 医療費控除前の所得税と住民税の額 772,500円(復興特別所得税、住民税均等割は除く)

かかった医療費等

(1)Aさんの治療費(年間)※高額医療費制度を含めた自己負担額
・入院・治療費:30万円
・退院後の通院・薬代:10万円
・差額ベッド代:10万円 →医療費控除対象外
(2)Aさんが薬局で購入した薬代:9万円
(3)Aさんの栄養ドリンク購入代(健康増進のため)2万円 →医療費控除対象外
(4)Aさんの妻が薬局で購入した薬代:3万円(全額がスイッチOTC医薬品に該当)
(5)Aさんの子どもの治療費(病気治療・通院5ヶ月)
・診察・薬代:5万円
・通院時の電車代:1万円
・通院時のタクシー代:1万円 →医療費控除対象外

受け取った保険金

(1)の入院に対して、保険会社より15万円の保険金が支払われた

医療費控除のシミュレーション

①控除対象となる医療費
・Aさんの入院・治療費30万円+退院後の通院・薬代10万円=40万円
・Aさんが薬局で購入した薬代=9万円
・Aさんの妻が薬局で購入した薬代=3万円
・Aさんの子どもの診察・薬代5万円+通院時の電車代1万円=6万円
控除対象となる医療費の合計=58万円
②補てんされる保険金:入院保険金=15万円
③所得調整額:10万円
④医療費控除額:58万円ー15万円ー10万円=33万円

医療費控除後の所得税と住民税の額 673,500円
医療費控除により還付される所得税と住民税の額 772,500円ー673,500円=99,000円

となります。

医療費控除を受けるための確定申告のやり方

自己負担した高額な医療費を確定申告することで、医療費控除により、税金の還付が受けられます。確定申告のやり方がわからず不安な方向けに、実際に確定申告で医療費控除を受けるための手続き方法を解説します。

医療費控除の必要書類

医療費控除の確定申告には、以下の書類が必要です。

  • 確定申告書Aまたは確定申告書B:会社員であれば記入事項が簡素な確定申告書Aがおすすめ
  • 医療費控除の明細書

医療費控除を受ける場合、領収書の内容をもとに医療費の明細書を作成して提出します。そのため、領収書の提出は不要です(ただし、自宅で5年間の保管が必要)。健康保険組合から送付される「医療費のお知らせ」のような通知の原本を添付すると、明細書の記載を簡略化できます。

「医療費控除の明細書」の書き方・記入内容

医療費通知を添付する場合

医療費通知を医療費控除のために添付する場合、以下の6項目の記載が必要です。

⦁ 被保険者の氏名
⦁ 療養を受けた年月
⦁ 療養を受けた人の氏名
⦁ 療養を受けた場所(病院・診療所・薬局など)の名前
⦁ 支払った医療費の額
⦁ 保険者(健康保険組合)等の名称

1 医療費通知に記載された事項

医療費控除の明細書の上段に「1 医療費通知に記載された事項」欄があります。

(1),(2),(3)の金額に説明の内容を記入します。

項目(1)医療費通知に記載された医療費の額(2) 上記(1) のうち、その年中に実際に支払った医療費の額(3) 上記(2)のうち、生命保険や社会保険などで補てんされる金額
金額
説明医療費通知に記載された金額
※医療費通知は1月~2月中に会社に届きます。
支払った医療費の額の合計

支払った医療費の合計額から、次のようなものを差し引く

  • 自治体からの助成金や高額療養費の払い戻し分
  • 年内に支払いが完了していない医療費

(3)の「保険で補てんされる額」とは、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引くので、引ききれない金額があっても、他の医療費からは差し引く必要がありません。たとえば、年間に10万円以上の医療費を支払った方が、胃潰瘍で1週間入院して5万円かかった場合に、生命保険から10万円の給付を受けたとします。その場合に「補てんされる金額」として差し引く金額は10万円ではなく、胃潰瘍に対する5万円になります。

医療費通知がない、または医療費通知に載らない医療費があれば、領収書をもとに中段の「2 医療費(上記1以外)の明細 」欄に記入します。

2 医療費(上記1以外)の明細

明細は、次の5項目で構成されています。

項目⑴ 医療を受けた方の氏名⑵ 病院・薬局などの支払先の名称⑶ 医療費の区分⑷ 支払った医療費の額⑸ ⑷のうち生命保険や社会保険などで補てんされる金額
説明領収書の宛名の氏名医療機関名、薬局名など「診療・治療」など該当するものすべてにチェックを入れる医療費控除の対象となる金額生命保険や出産一時金などの合計金額

明細は領収書ごとでなく、医療を受けた人や病院単位での合計の記入も可能です。また、(5)の補てんされる金額については、先述した医療費通知の欄と同様に給付の対象となった医療費の金額を上限とします。

3 控除額の計算

医療費控除の明細書の下段「3 控除額の計算」欄は、下図のAからBまでを順次記入し、Gの医療費控除額を確定申告書に転記します。

Aの内容「1 医療費通知に記載された事項」(2)の金額と「2 医療費(上記1以外)の明細」(2)の合計額
Bの内容「1 医療費通知に記載された事項」(3)と「2 医療費(上記1以外)の明細」(5)の合計額
Cの内容上記のA-Bの合計額(マイナスの場合は0円)
Dの内容源泉徴収票に記載された「給与所得控除後の金額」および、その他の所得の合計額(=申請者の総所得)
Eの内容上記Dの金額の5%(マイナスの場合は0円)
Fの内容上記Eと10万円のいずれか少ないほうの金額
Gの内容上記C-Fの合計額(200万円超の場合、200万円。マイナスの場合は0円)

以上となります。

医療費控除の申告期限

通常、確定申告の期限は翌年の2月16日から3月15日です。申告する目的が医療費控除のみの場合、期限に関係なく翌年の1月1日から5年のあいだに申告書の提出が可能です(さかのぼっての申告ができる)。※「1 医療費通知に記載された事項」を記入するために必要な医療費通知は、通常、翌年1月~2月中に会社、または自宅へ送られます。

まとめ

医療費控除の申請は年末調整の対象外となり、会社員やサラリーマンの方は確定申告が必要です。定期的に医療費がかかる場合、日頃から家族の医療費に関する領収書をまとめて保管しておきましょう。医療費控除のやり方がよくわからない、または、忙しくて医療費控除の明細書が作れない、などのお悩みのある方は税理士への相談をおすすめします。

ZEY株式会社 税務部門監修

節税・税金対策に強い専門家へお任せください。